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恋人/日吉視点


「お花見に行こうよ。」

「……は?」

一足先に待ち合わせ場所に来ていた彼女の突然の提案に、俺は僅かに眉を寄せた。

「映画に行くんじゃなかったのかよ。」

「それは今度にして、今日はお花見にしよう?」

怪訝そうにする俺に、彼女はへにゃりと締まりの無い笑顔を向けてくる。

「来る途中にある公園で出店がやってたの。」

「食べ物が目当てなのは花見って言わないだろ。」

「いいじゃない。おいしいものを食べながら花を見るんだもん。花見だよ。」

「……はぁ、勝手にしろ。」

言い出したら聞かない性格だと知っている俺は、仕方ないとばかりに、あからさまに溜息を吐いてやった。

だが、彼女は俺のそんな態度など気にも留めず、

「やった! 若、好きー」

さっきよりも緩んだ顔で笑い、俺の腕に抱き着いてきた。

そんな彼女を振り払わない自分は、彼女にはつくづく甘いと思う。

(何だかな…)



公園に着いてみれば、休日だということもあり、多くの人で混雑していた。

だが、彼女に連れられて公園の奥へ行くと、桜の木が少ないからか、人は殆どいなかった。

「おい、どこまで行くんだ。ここら辺でいいんじゃないのか?」

「まだ、もう少し先。」

立ち止まろうとした俺の手を彼女が引く。

大人しくついて行けば、そこには大きな桜の木が一本だけあった。

「すごいでしょ? まだ花が咲く前に見つけたんだ。」

「ああ…凄いな。」

その咲き誇る姿に、素直に感心した。

風に吹かれて散る桜は儚いイメージが強いが、目の前に立つ桜の大木は壮麗だ。

「じゃ、さっき買ってきたお団子食べよ。あっちにベンチあるから。」

「……結局は食い気か。」

視線を桜から彼女に移し、呆れたように言ってやるが、マイペースな彼女が気にする筈も無い。

「だって、キレイな景色を見ながら食べるとおいしいじゃない。それに……好きな人と一緒だから、なおさらにね。」

小さく付け足された言葉に、彼女を見れば、頬が淡く染まっていた。

「っ……バカが。」

悪態をつきながらも、俺は自分の頬が熱を持つのを自覚していた。



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