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恋人(同学年)/ヒロイン視点


学校帰りに二人で寄ったのはケーキがおいしいと評判のカフェだ。

友達とは数回来たことがあるけれど、蔵ノ介と来るのは今日が初めてだったりする。

空いている席に着き、なんとなしに店内を見渡すと、小さな鉢植えがいつくも飾られているのが目に入った。

「何見とるん? ……ああ、ポインセチアか。」

私の視線を追った蔵ノ介が同じように鉢植えに目を移した。

「うん、可愛いよね。」

私たちの席の近くにあったのは淡いピンクと白が混じったポインセチアの花で、すごく可愛らしい。

「色ついてて花に見える部分は本物の花やないって、知っとる?」

「え、そうなの? 紫陽花みたいな感じ?」

「惜しいな。紫陽花のはガクやけど、ポインセチアのは苞(ほう)って言うて葉が変化してものなんやて。」

「へぇー、そうなんだ。蔵ノ介が詳しいってことは毒があるの?」

「そうやで。毒性はごく低いけどな。ただ、猫とかには危険なんや。」

「そうなんだ。そういえば、しばらく蔵ノ介のところの猫ちゃんに会ってないなぁ。」

「元気にしとるから、今度会いに来たらええよ。」

「うん。」

そんな風に話をしていたら、店員さんが注文していたコーヒーとケーキを持ってきてくれた。

私の前に置かれたのは、ツヤツヤした真っ赤な大粒の苺が乗ったタルトだ。

鮮やかな見た目に惹かれるというのもあるけれど、やっぱり冬は苺が食べたくなる。

さっそく手に取ったフォークを苺のタルトに入れて口に運ぶ。

タルト生地はサクサクで、カスタードクリームと生クリームのバランスは絶妙だし、苺も甘くて(甘酸っぱいのは少し苦手だから)、文句なしにおいしい。

「すごい、おいしい。幸せー」

「ホンマにうまいな、ここのケーキ。」

「でしょ? ね、私のも一口食べてみて。絶対おいしいから。」

私はにこにこしながら、銀色のフォークに刺した苺を蔵ノ介に差し出した。

蔵ノ介は一瞬だけ固まったような気がするけど、すぐにパクッとクリームのついた苺にかじりついた。

「うん、うまいな。…なぁ、こっちもうまいから、一口食べてみぃ?」

続きを食べようとフォークを持ち直したところで、今度は私の方に蔵ノ介のフォークが差し出された。

フォークには蔵ノ介が頼んだチーズケーキが乗っている。

自分の番になって初めて、すごく恥ずかしいことをしてしまったのだと気付いた。

二人きりならまだしも、公衆の面前でこれは……ない。

だいたい、蔵ノ介は格好良くて目立つから視線を集めやすいのだ。

現に、カップルもいるものの女の子が多い店内では、嫉妬混じりの視線が自分に注がれているのが分かる。

どうしようかと固まっていたら、蔵ノ介は私の口元までチーズケーキの乗ったフォークを近付けてきた。

「なまえ、あーん。」

蔵ノ介は普段よりも爽やかさ5割り増しくらいの笑顔を私に向けてくる。

私は『チーズケーキに誘惑されているから仕方ないんだ』とよく分からない言い訳を自分にして、頬が熱を持つのを自覚しながら口を開けた。

恥ずかしくて仕方ないけれど、せっかくのケーキをじっくりと味わう。

なめらかな舌触りのチーズケーキは、濃厚な味なのに後味はさっぱりしている。

「おいしい、ね。」

「せやろ。もう一口食べるか?」

「い、いやっ、もう十分だから!」

「遠慮せんでもええんやで?」

「大丈夫っ、遠慮なんてしてないから、ほんとに…!」

ぶんぶんと首を横に振って、蔵ノ介がまた食べさせようとしてくるのを断る。

「可愛えなぁ、なまえは。」

甘い笑みを浮かべて見つめてくる蔵ノ介の視線に耐えきれなくて俯くと、食べかけの苺のタルトと目が合った。

きっと、苺に負けないくらいに私の顔は真っ赤になっているに違いない。


(2012.12.05)

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