同級生/財前視点
太陽が沈みかけて、空は淡い色のグラデーションに彩られている。
俺は神社の入り口に立ち、行き交う人々をぼんやりと見ていた。
本当は、夏祭りに来るつもりなんて全くなかった。
クラスの奴がしつこく誘ってきたけど断っていた。
でも――
「あれ…財前くん、来てたんだ。」
人が多くて周りは騒がしいのに、彼女の声はやけに鮮明に聞こえた。
ゆっくりと声がした方を見ると、そこには浴衣姿の彼女が立っていた。
淡いクリーム地にピンク色のコスモスの花が散らされた浴衣を着た彼女から、俺はスッと視線を外した。
(反則やろ。可愛すぎるわ。)
騒ぎ出した鼓動を抑えようとするが、それは無意味で、動揺を顔に出さないようにするのが精一杯だ。
「財前くん?」
「っ、…何や。」
いつの間にか彼女が目の前に立っていて、俺は思わず後ろにのけ反りそうになった。
「えっと、反応がなかったから。来ないって言ってたけど、誰かと待ち合わせ?」
「ちゃう。…気ぃ向いたから来ただけや。」
「そうなんだ? でも、皆も喜ぶよ。」
ふわりと微笑む彼女の姿にドキッとするが、なんとか表情を取り繕う。
「なまえー!」
彼女を呼ぶ声がして視線を巡らせれば、道の向こう側からクラスの奴らが数人こちらに歩いてくるところだった。
「あっ、財前もおるやん。」
「チッ…行くで、みょうじ。」
「えっ、財前くん…?」
俺は戸惑っている彼女の手を掴んで、人混みの中に紛れ込んだ。
掴んでいる小さな手から伝わる温もりに、手の平から全身に熱が広がっていく。
「ねぇ、財前くん。…財前くんっ!」
ぐいっと手を後ろに引かれて足を止めたが、彼女の方を振り返れない。
彼女はどんな顔をしているのだろうか。
後先の事なんて何も考えていなかった。
「なんで、急に…?」
「嫌なんか? 俺と一緒なんは。」
俺の言葉に、ぴくっと彼女の指が動いたのを感じた。
「…嫌じゃ、ないよ。」
小さな声で答える彼女が俺の手を振り解く様子はない。
「なら、ええやん。」
「……良くないよ。だって、私…勘違いして……期待、しちゃう。」
「したらええやん。…勘違いとちゃうし。」
力の入っていない彼女の手をぎゅっと強く握る。
「……ほんと、に?」
「おん。……俺も期待…自惚れてもええんか?」
「…うん。自惚れ、じゃないから。」
弱々しくだが、彼女が俺の手を握り返してきた。
「……そう、か。」
「うん。私、財前くんが好き。」
隣に並んだ彼女は俺を見上げ、花が咲くようにふわっと笑った。
(こいつは俺を死なす気か?)
俺は、もう隠しようがない位に自分の顔が赤くなっていくのを自覚した。
(2011.08.17)
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