同学年/マネージャー/切原視点
土曜日の夜、俺は部活の先輩たちと学校近くの神社の夏祭りに来ていた。
幸村部長が練習の息抜きにと提案したからだ。
俺は真田副部長が引率の先生よろしく注意事項を言っている間、彼女のことが気になって仕方なかった。
花柄の赤い浴衣を着た彼女はいつもと違う雰囲気で、自然と胸が高鳴る。
あまり大人数でぞろぞろと歩くと邪魔になるということで、テキトーに分かれて遊ぶことになった。
そこで俺は、真田副部長の話が終わるとすぐに、彼女に声をかけた。
「まずは腹ごしらえ、だよな。」
「丸井先輩みたいだね。」
「あそこまでは食い意地張ってねーよ。」
「そう?」
「とにかく、行くぞ。」
どさくさに紛れて彼女の手を掴む。
彼女は少し驚いたようだけど、俺の手を振りほどいたりはしなかった。
「はー、食った食った。」
「よくそんなに食べるね。今さらだけど。」
腹がいっぱいになって満足していると、飴細工のイルカをくるくると回しながら見ていた彼女は少し呆れたような視線を俺によこした。
「そういうお前はぜんぜん食ってねーけど、足りんの?」
「うん、そんなにおなか空いてないから。……あ、柳生先輩!」
急に声を上げた彼女つられて前を見れば、行き交う人々の中に柳生先輩がいた。
「おや、みょうじさんに切原くん。」
「お一人なんですか?」
「ええ。先程までは仁王くんと一緒だったのですが、急にふらりといなくなってしまいましてね。」
「なんつーか、仁王先輩らしいッスね。」
「そうですね。……そうだ、みょうじさん、良い物があるんですよ。」
柳生先輩は思い付いたように言うと、手に持っていた箱を開けた。
そして、その中から取り出した赤い花の髪飾りを彼女の髪につけた。
「よくお似合いです。これは差し上げますので、どうぞ。」
「わぁ、ありがとうございます! …本当に頂いてしまってもいいんですか?」
「ええ。仁王くんと射的で勝負している時に当てた景品ですから、遠慮は要りませんよ。」
嬉しそうにする彼女を面白くない気持ちで見ていると、急に柳生先輩が彼女の耳元に顔を寄せた。
なにを言ったのかは分からないけど、彼女は柳生先輩の言葉に頬を染めた。
すごくイライラする。
「なまえ!」
「なっ、なに…?!」
掴んだ彼女の手をぐいぐい引っぱって人混みを歩いていく。
柳生先輩が後ろでなんか言ってたけど、知ったことか。
人のいない神社の境内の奥のほうまで来てようやく、俺は彼女の手を離した。
「お前さ、なんで俺といるのに他の男と仲良くすんの?」
「仲良くって…普通に先輩と話してただけじゃない。」
「どこがだよ! 柳生先輩にプレゼントもらって、すげーヘラヘラしてたじゃん。」
「……赤也って、ほんとにバカだよね。おまけに短気だし鈍感だし。」
「なっ、ケンカ売ってんのか! つか、鈍いのはお前のほうだろ!?」
呆れられてる意味が分からない。
「私が誰のために浴衣を着て来たと思ってるの?」
「……は?」
「しかも、せっかく赤い色にしたのに一言も褒めてくれないとか、どういうこと?」
「それって……もしかして…?」
「全部は言わせないでよね。」
彼女は怒ったような顔をして、そっぽを向いた。
たぶん俺は期待していいんだと思う。
だって、提灯の明かりに照らされた彼女の頬がさっきよりも赤いから。
「なまえ、……俺…」
(2011.07.21)
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