同学年/ヒロイン視点
いつの間に眠っていたのだろう。
自分の腕に伏せていた顔を上げると、教室にはもう誰もいないようだった。
「…ん?」
左の手首に違和感を覚えて目を落とせば、見慣れないブレスレットがつけられていた。
「これ……なんで?」
細いシルバーのチェーンに淡い水色のビーズが散りばめられたブレスレットはすごく可愛らしいけれど、どうしてここにあるのだろう。
「なかなか良いじゃろ?」
「へっ?!」
静かな教室に響いた声に驚いて後ろを振り向くと、斜め後ろの机に腰を預けている仁王と目が合った。
「これって、もしかして仁王がつけたの? なんで?」
「ホワイトデーのお返しじゃよ。」
「えっ、うそ、ありがとう。……って! 私、チョコ…」
寝起きの頭が混乱する。
だって、私は…
「直接渡してくれんとか意地悪じゃな、お前さんは。」
「っ、……なんで…」
最後の勇気が出なかった私は、他の女の子達からのチョコが入った紙袋に自分のチョコをこっそり紛れさせた。
だけど、最初は手渡しするつもりだったからメッセージカードなんてものは入れてなかったし、自分の名前を書いたりはしなかった。
それなのに、どうして私がチョコをあげたことを知っているのだろうか、と呆然と仁王を見る。
「簡単な話じゃよ。見とったからのう。…最初から最後まで。」
「う、嘘…っ」
絶対に挙動不審であっただろう姿をずっと見られていたのかと、恥ずかしさが込み上げてくる。
しかも、好きな相手に。
一気に顔を赤くした私を見て、仁王がクツクツと楽しそうに笑う。
返す言葉もなくて黙り込む私だけど、仁王がお返しをくれたという事実を思い出す。
「あのさ、これをくれたってことは…」
「ブレスレットって手錠みたいだと思わんか?」
手首のブレスレットに触れながら期待を隠せない私に仁王が予想外の言葉を投げかけてきた。
「じゃけえ、連行するぜよ。」
「え、ちょっ、何? さっきから意味分からないんだけど!」
仁王は二人分の鞄を片手に持って、ブレスレットのついてないほうの私の手首を掴んで教室を出た。
「どこ行くの? っていうか、ほんとに何なの?」
戸惑いながらもマイペースな仁王の隣に並んで廊下を歩く。
「察しの悪い奴じゃのう。」
残念なものを見るような目を向けてくる仁王に少しムッとする。
「何よ。仁王がわかりにくいのが悪いんでしょ。」
「デートじゃよ、デート。」
「…はい?」
わざとらしく大きなため息をついた仁王の言葉に目をぱちくりさせる。
「間抜けな顔じゃな。」
失礼なことを言ってくる仁王だけど、そんなことより…
「デートの前にさ、言うことはないの? っていうか、あるでしょ。」
「お前さんが先に言うべきじゃなか?」
「……私が言ったら仁王も言ってくれるの?」
「そうじゃのう……1か月後くらいに。」
「何でよ!」
お返しはくれたのに、どうして言葉にしてくれようとしないのか。
むすっと口を尖らせていた私だけど、ふと考えついて口を開く。
「もしかして、拗ねてる? 私がチョコを直接渡さなかったから。」
「さあのう。」
はぐらかす仁王を見て、私は笑ってしまった。
違うならハッキリ否定するだろうから、きっと図星なのだと思う。
「何笑っとるんじゃ。」
「さあ?」
私もはぐらかすと、仁王が恨めしそうな顔をしたから、余計に笑ってしまった。
(2012.03.10 初掲)□□
(2023.03.14 加筆修正)
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