恋人(同級生)/仁王視点
薄い闇に紛れて獲物が一人になるのを待つ。
彼女以外の生徒が教室から出て行ったのを確認し、俺は潜んでいた廊下の柱の陰から姿を現した。
ドアのガラスから中を窺えば、彼女は窓の外を眺めているようで、こちらに背中を向けていた。
音を立てずにドアを開けて中に入り、ドアのすぐ近くにあるスイッチを押して電気を消した。
「え、なにっ?!」
急に暗くなったことに驚いている彼女に素早く近付いて、背後から抱き締めた。
「捕まえたぜよ、なまえ。」
「っ、……まさ、はる…?」
驚き過ぎて声が出ないのか、彼女の声は掠れていた。
「いいや、お前さんの血を貰いに来た吸血鬼じゃよ。」
「ええっ? ……あ、その格好…」
少し腕の力を弱めてやると、彼女は首だけ回して後ろを向き、俺の姿を見て目を瞬かせた。
「似合うじゃろ?」
目を細めて薄く笑ってみせると、彼女はほんのりと頬を染めた。
「っ…似合い過ぎ。でも、そんな衣装を用意してたのに、なんでクラスのハロウィンパーティーに参加しなかったの?」
「そんなことより、どこに噛み付いて欲しいんじゃ?」
再び彼女の身体を強く抱き寄せて耳元で低く囁く。
「今夜の獲物はお前さんじゃき。覚悟しんしゃい。」
首筋に軽く唇を落とすと、彼女は可愛らしい声を上げた。
「悪ふざけが過ぎるよ。」
「フッ…本当は期待しちょる癖に。」
俺の腕の中から逃げることの出来ない彼女の非力さに、劣情は煽られる。
「どこがいいか言わんと、俺の好きな場所に噛み付くぜよ。」
「雅治、止め…ぁっ」
首筋を舐め上げて耳朶に軽く歯を立てると、彼女の身体がびくりと震えた。
「決められんようじゃし、俺の好きにするナリ。」
腕の中で反転させた彼女の身体を窓に押し付ける。
「まっ、雅治…っ」
涙で濡れて光る瞳で俺を見上げる彼女に、何かが切れる音がした。
「煽り過ぎじゃ。」
彼女の髪に手を差し込んで、噛み付くように口付けた。
震える唇を舌でなぞり、下唇を甘く噛んで、薄く開いた唇の隙間から舌を侵入させる。
閉じられている歯列を丁寧に舐めると、少し歯と歯の間が開き、更に深く舌を捩じ込んだ。
奥に縮こまっている小さな舌を絡め取って吸い上げれば、彼女は甘い吐息を洩らした。
逃げなくなった彼女の舌の付け根を擽ったり、舌先を擦り合わせたりする。
俺の胸を押し返していた彼女の手は、いつの間にか縋り付くように俺の服を掴んでいた。
最後に、音を立てて口付けてから唇を離した。
「そんなに良かったん?」
濡れた唇をそのままに熱を帯びた瞳を揺らして俺を見ている彼女の頬を撫でる。
「……バカ。」
小さく言って視線を逸らした彼女の耳元に唇を寄せる。
「今夜は逃がしてやらんよ。」
低く甘く囁いてやると、彼女は俺に身体を預けてきて、俺は口の端を上げた。
――狙った獲物は、この手に堕ちた。
(2011.10.27)
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