同級生/ヒロイン視点
「よう分からんが盛況なようじゃのぅ?」
友達からもらったプレゼントを手に自分の席に戻ると、前の席の仁王が振り返って声をかけてきた。
「私、今日が誕生日だから。」
「そうか。なら、俺も何かやらんといけんな。」
「えっ いいよ、気にしなくて。」
「遠慮しなさんな。…ほれ、これをやるぜよ。」
ころんと私の机の上に置かれたのは、ソーダ味の飴玉がひとつ。
「ありがと。」
仁王から何かもらえるとは思っていなかったから、これだけでも嬉しい。
「どういたしまして。」
「…って、どこ行くの?」
あと少しでHRが始まるというのに、仁王は席から立ち上がる。
「一限は自習じゃからのぅ。」
「全く…サボるのも程々にしなよ?」
「んー」
仁王は私に背中を向けてひらひらと手を振り、だるそうに猫背で歩きながら教室を出て行った。
自習のプリントが早く終わってしまい、私は時間を持て余していた。
(そういえば、仁王にもらった飴があったよね。)
後ろの方の席の私は、先生に見つからないように気をつけながら制服のポケットにしまっていた飴を取り出した。
(あれ?)
音を立てないように気をつけて包み紙の左右を引っ張って開けると、内側の包み紙の裏側に何か文字が書いてあるようだった。
私は水色の飴玉を口に入れてから、シワになっている包み紙を裏返した。
具合が悪いから保健室に行くと偽って教室を出た私は、足早に階段を上っていた。
屋上の扉を開けると、視線を巡らすまでもなく仁王はフェンスを背に真正面に立っていた。
「意外と早かったのぅ。」
「意外と分かりやすい所にいたね。」
あの包み紙の裏には小さな字で【俺を見つけられたら…】と書いてあったから、もっと分かりにくい場所にいると思っていた。
だから、屋上に来たのはダメ元だったのに。
「お前さんに見つけてもらわんと俺も困るからのぅ。」
「そうなの?」
やっぱり猫背で歩きながら近付いてくる仁王に、私は首を傾げるばかりだ。
「ああ。まずは、誕生日おめでとさん、みょうじ。」
「ありがとう。…それで、【ちゃんとしたプレゼント】って何?」
わざわざ回りくどいマネをした仁王が私に何をくれるのか、つい期待してしまう。
(いつものペテンじゃないよね?)
少し心配になりながら、すぐ目の前に立った仁王を見上げる。
「プレゼントは俺ナリ。」
「はいっ?」
予想外の言葉を聞いて間抜けな声を出した私に、仁王は自分の後ろ髪を持ち上げて見せた。
その束ねられた銀色の髪には、いつもの赤いゴムじゃなく、蝶々結びにされた青いリボンがついていた。
「返品不可やけぇ、大事にするんじゃよ?」
(2011.11.20)
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