同級生/日吉視点
学生鞄に入っているプレゼントのことを考えると、溜息が出た。
さんざん迷った挙句に結局プレゼントを買ったのだが、渡すタイミングが掴めなかった。
そうこうしているうちに放課後になり、部活の時間も終わってしまった。
「…くだらない。」
柄にも無い事をしようとするから無駄な精神力を使うのだ。
イベントなんてものに、俺は全く興味が無いのに。
こうなったら机の中に入れてしまおうと考えて教室に行くと、既に帰ったと思っていた彼女が一人で残っていた。
「あ、日吉。部活お疲れさま。」
鞄に教科書やプリントをしまっていた彼女が俺に気付いて顔を上げた。
「お前、こんな時間まで何してんだ?」
「宿題をやってたの。少し前まで友達と一緒にね。」
「こんな時間までか? どうせ、くだらない話でもしてたんだろ。」
「……宿題もちゃんとやったからいいの。」
彼女は図星を指されて少し言葉を詰まらせたものの、控えめに反論してきた。
「ところで、日吉はどうして教室に? 忘れもの?」
鞄を持った彼女が椅子から立ち上がる。
「いや、まあ……ちょっとな。」
ここまで来た癖に、いないと思っていた彼女がいたことに動揺して、肝心なことを言えない。
「? それじゃあ、私は帰るね。また明日…」
「ちょっと待て、みょうじ。」
今日が何の日か意識していないのか、さっさと教室を出ていこうとする彼女を慌て呼び止めた。
「これ、やる。」
彼女の目の前に立ち、上着のポケットから取り出した小さな包みを突き出す。
我ながら、つっけんどんな物言いだと思う。
「どうしたの、急に?」
「っ…いいから、受け取れよ。」
不思議そうに首を傾げる彼女の手を取って、包みを握らせる。
「えっと……ありがとう。」
「……ホワイトデー、だからな。」
まだ分かっていない様子の彼女に仕方なく言ってやれば、驚いた顔をされた。
「お返し、なの? 日吉がくれるなんて意外。」
「文句でもあるのかよ?」
彼女の反応に居心地が悪くなって、つい乱暴に言ってしまう。
「まさか! ありがとう、嬉しいよ。」
彼女はプレゼントを大事そうに両手で包み、本当に嬉しそうに笑った。
「言っておくが、お前にだけだからな。」
「日吉?」
俺の言葉に目を瞬かせた彼女を真っ直ぐに見つめる。
「お前が…特別に意味があってバレンタインのチョコを寄越した訳じゃないことは分かっている。でも……俺はお前が好きだ。だから…」
「違うよ。」
「……は?」
「ラッピングは友達にあげたのと同じだったけど、日吉にあげたのだけは中身が違うんだよ。」
頬を淡く染めた彼女の言葉。
その意味なんて、すぐに分かった。
「私も日吉が好きだよ。」
俺を見上げて、彼女はとても綺麗に微笑んだ。
(2012.03.08)
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