恋人(先輩)/ヒロイン視点
放課後、私は誰もいなくなった教室の窓辺に立ち、ぼんやりと外を見ていた。
「結局、会えなかったな…」
思わず零した自分の溜息が重くて、余計に落ち込んでしまった。
窓枠に背中を預けて自分の机の上を見れば、鞄と一緒に友達からもらった可愛くラッピングされたプレゼントが置いてある。
すごく嬉しかったけれど、その中に恋人からのプレゼントは無い。
だけど、プレゼントが欲しい訳じゃない。
今日はまだ会えていない恋人のことを考えながら、私はまた溜息をついた。
朝練があるからHRの前に会えないのはいつものことだ。
それで、お昼を一緒に食べようと思って二年生の教室まで迎えに行ったのに会えなかった。
放課後になったら会えると思ったけれど、向こうから会いに来てくれることはなかった。
それで、なんだか避けられているような気がしてしまって、電話どころかメールも出来なくて、今に至る。
怒らせるようなことをした心当たりはないけれど、気付かないうちに何かしてしまったのではないかと不安になる。
物思いに沈んでいると、教室のドアが開けられる音がした。
顔を上げてドアのほうを見ると、教室の入口には若が立っていた。
意外な登場に驚いて目を瞬かせていると、若は何も言わずに教室の中に入ってきた。
「すみませんでした。」
酷く決まり悪そうな顔をして頭を下げた若に戸惑う。
「プレゼント、用意できませんでした。色々と考えたんですけど、何がいいのか思いつかなくて…すみません。」
「若…ありがとう。」
避けられていたんじゃないと分かって安心したし、真剣に悩んでくれたらしい若の気持ちが嬉しい。
「どうしてなまえさんがお礼を言うんですか?」
今度は若が戸惑った様子で私を見た。
そんな若に、私はゆっくりと笑いかけた。
「私のことを考えて悩んでくれたんでしょ? その気持ちが嬉しいよ。」
「そんな、こと…」
「本当に嬉しいよ。……だけど、今日は会えなくて寂しかった。」
「なまえさん…すみせん。」
すごく好きだから会いたかったと、そう伝えたかっただけなのだけど、若は表情を歪めて視線を逸らしてしまった。
「責めていないし謝って欲しい訳じゃないよ。ただ…今は別の言葉が聞きたいな、なんて。」
そこまで言うと、若はハッとしたように視線を私に戻した。
「なまえさん、誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう、若。」
若からのその言葉だけで、さっきまでの沈んだ気持ちなんて綺麗に消えてなくなってしまう。
今日くらいは許されるだろうと思って、若の腰に手を回して抱き着く。
若は少し身体を強張らせたけれど、私を引き離すこともなく、背中に手を回して抱き寄せてくれた。
「好きだよ、若。」
「あなたはいつも唐突ですね。」
「嬉しいと言いたくなるんだよ。」
「そういうものですか。」
「うん、そういうものなの。少なくとも、私はね。」
「…俺も好きです、なまえさん。」
やけに優しい声が降ってきて、私は幸せな気持ちでそっと目を閉じた。
(2012.02.10)
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