後輩/ヒロイン視点
昼食を済ませた私は、残りの休み時間をカフェテリアの奥まった席でお気に入りの作家の新刊を読んで過ごしていた。
周りは少し騒がしいけれど、本の世界に入ってしまえば、それは気にならなくなる。
空は爽やかに晴れ渡っていて、時折吹く風が優しく頬を撫でる。
切りの良い所まで読み、カフェオレの入った紙コップに手を伸ばした時、ふっと手元に影が差した。
「なまえちゃん、一緒してええ?」
「はいどうぞ、おし、…侑士先輩。」
傍らを見上げて影の主を確認した私は、紙コップを自分の方に寄せた。
それにしても、先輩にお願いされて名前で呼ぶようになったけれど、まだ慣れない。
「おおきに。」
人当たりの良さそうな柔らかな笑みを浮かべた先輩は私の向かい側の椅子を引いて座る。
私は読みかけの本に栞を挟んで閉じ、テーブルの脇へと寄せた。
「邪魔やなかった?」
「いえ、全然そんなことないです。」
先輩に笑い返してから、私はカフェオレを一口飲んだ。
「なら、ええんやけど。…ところで、なまえちゃん。」
「はい?」
「今週の土曜日って、自分の誕生日やんな?」
「そうですけど……私、先輩に言ったことありましたか?」
視線を斜め上に向けて記憶を辿る。
「これ、早いけど、俺からの誕生日プレゼントな。」
そう言って、先輩がテーブルの上に何かを置いた。
「え、そんなっ あ、ありがとうございます!」
私は少し恐縮しながらテーブルの上に置かれたプレゼントを見た。
「あ、これ…」
そこにあったのは映画のチケットが二枚。
先週から公開されている恋愛映画のものだ。
「ありがとうございますっ これ、すごく見たかったんです。」
「どういたしまして。それでな、これにはオプションが付くねん。」
「…オプション、ですか?」
映画のチケットから向かいで頬杖をついている先輩に視線を移すと、にこりと微笑まれた。
「俺が一緒に行くってオプションなんやけど…どうや?」
「ど、どうって……いいんですか?」
私にとってはすごく嬉しいことだけれど、本当にいいのだろうか。
「ええから誘ってるに決まっとるやん。ほなら、土曜日は一日空けといてな。」
「一日、ですか?」
「ああ。デートやから、ちゃんと可愛くして来るんやで?」
「でっ、デート?!」
「何驚いとるん?」
「だ、だって……その…」
【デート】という単語に自分が反応し過ぎなのかもしれないけれど、私の中では【デート】というのは恋人か互いに好意を抱いている二人がするものだ。
だけど、ただ一緒に遊びに行くことを【デート】と言う人もいる。
今は、どっちの意味で誘われているのだろうか。
「楽しみにしとってや。ちゃんとプラン立てとくから。」
時間と待ち合わせ場所は後でメールすると言い残して、先輩はカフェテリアを出て行ってしまった。
「え、えーと…」
とりあえず、どんな服を着て行くか考えないと。
(2011.12.03)
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