※あくまで友達の関係
同学年/ヒロイン視点
ひとつ深呼吸をしてから、生徒会室のドアを勢いよく開ける。
「おじゃましまーす!」
元気よく中に入っていったら、ソファーに座っていた跡部が鬱陶しそうな視線を向けてきた。
「相変わらず騒々しいな、お前は。」
「元気だけが取り得なもので。」
へらりと能天気に笑って、やたら高そうなソファーに座っている跡部のほうに歩いていく。
「…で? 俺を笑いに来たのかよ?」
「そりゃあ、あの跡部様がフラれたなんて聞いたらねー」
顔を覗き込みながらニヤニヤ笑えば、跡部の眉間のしわが深くなる。
「悪趣味だな。」
「いやいや、冗談だって。」
吐き捨てるように言った跡部に向かって両腕を広げる。
「今なら特別に私の胸をタダで貸してあげるから、好きなだけ泣くがいいさ。」
「誰が泣くか。大体、お前の貧相な胸なんか貸されても嬉しくねーよ。」
「失礼な。私は着やせするタイプなんだからね。ちゃんと出るところは出てるんですー」
腰に手を当てて胸を張れば、跡部はバカにしたように鼻で笑った。
「出てるのは腹だけだろ?」
「そんな太ってないし! まったく、人の厚意をなんだと思ってんの?」
私はぶうっと頬をふくらませて、跡部の向かいのソファーにどかっと腰を下ろした。
「お前なんかに慰められる程、零落れちゃいねーよ、俺は。」
本気で怒ってるワケじゃないけど、私は思いきり横を向いて跡部から視線を外した。
「そうだろうけどさ、一人の時くらいは泣いてもいいんじゃないの?」
「だから、泣かねーって。」
「本気で好きだったんでしょ。悲しくないわけ、ないじゃん。」
「いいんだよ。もう終わったことだ。それより、お前の方はどうなってんだよ? あの冴えねー男とは…」
「終わったよ。当たる前に砕けた。ってか、サエないとか言わないでよね。めちゃくちゃ良い人なんだからね。」
ちょっとだけ、泣きそうになったのをなんとか我慢した。
でも、少し目が潤んだのは跡部にはバレたかもしれない。
私は小さく息をついてから、ソファーの背に思いきり寄りかかって真上の天井を見上げた。
「一昨日から付き合い出したんだって。さっき、偶然にさ、一緒に帰っていくの見たけど……幸せそうだったよ。しかも、すごく可愛い彼女だった。」
「…そうか。」
「うん。」
ごろりとソファーに横になって目を閉じる。
「私にもっと可愛げがあったらなー」
「そういう問題か?」
「あの人は可愛らしい子が好みだってのは知ってたんだよ。私だって、頑張れば少しくらいはカワイ子ぶれるけどさ、そんなの嘘じゃん。ほんとじゃない私を好きになってもらっても嬉しくないよ。」
「…そうだな。」
「跡部はいいよねー 性格悪いのに好きだって言ってくれる女の子がいっぱいだもん。」
「誰が性格悪いだ。……何人に好かれようが、たった一人に好かれなかったら意味ねーよ。」
「…そうだね。ごめん。」
「いや。」
お互いに黙ってしまえば、静寂が空間を満たす。
外は晴れていて、窓からの暖かい陽射しが気持ち良い。
絶好のお昼寝日和だから、このままふて寝してしまおうかと考える。
「お前の良さが分かる奴もいるだろ。」
急に口を開いた跡部の言葉に目を開けると、跡部は足を組んでソファーにふんぞり返って座ったまま窓の外を見ていた。
「私、いい所ある?」
「ほんの少しだけどな。でも、気付く奴は気付くだろ。…まあ、お前を恋愛対象で好きになる奴なんて相当な物好きしかいねーだろうがな。」
「……ありがと。」
かなり余計なことも言われているけど、跡部なりに慰めてくれているのは分かった。
「別に。」
わざとらしく、しかつめらしい顔をしている跡部の横顔を見て、私はバレないようにこっそりと笑った。
「なんか甘いものでも食べに行くか?」
「なんで急に甘いもの?」
跡部の提案を意外に思いながら、上半身をソファーから起こす。
「お前のことだ、一人で淋しくヤケ食いするつもりだったんだろ? 仕方ねーから俺様が付き合ってやるよ。」
私には遠慮なくきつい言葉をくれる跡部だけど、なんだかんで優しくて、心が温かくなる。
「それって跡部のおごり?」
「ああ、俺から誘ったんだからな。」
「じゃあさ、この間のケーキのお店がいい。余ったのくれたじゃん。あのチョコレートのやつ、すっごいおいしかったから。」
「分かった。車を呼ぶから、お前は帰る準備して来い。」
「りょーかいです。」
パッとソファーから立ち上がって、軽い足取りでドアのほうに歩いていく。
ドアの前で、私はくるりと跡部のほうを振り返った。
「跡部、大好き!」
「バーカ、食い物に釣られてんじゃねーよ。」
笑顔を向ければ、跡部はやれやれって顔をしていたけど、少しだけ口元が笑っていた。
「そんなんじゃないもん。」
「分かったから、さっさと行け。」
「うん、また後でね!」
ブルーな時には気分転換が必要さ
(2012.08.18)
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