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恋人(同学年)/切原視点


「あーダメだ、ぜんぜん集中できねぇ。」

とりあえずセーブだけした後、携帯型ゲーム機をベッドの上に投げて、ごろんと床に寝転がる。

床に置いてあったスマホを手に取って確認すれば、もうすぐで夜中の12時を回るところだった。

バカみたいに期待してる自分がいる。

「っくそ、落ち着かねーし。」

悪態をつきながら、じっとスマホの画面をにらむように見つめる。

「!!」

12時になった途端に表示された彼女の名前を見て、音が鳴り出す前に通話ボタンを押す。

「なまえっ!」

「っ、…びっくりした。起きてたの?」

驚いた彼女の顔が簡単に思い浮かんで、なんか笑いそうになる。

「待ってたんだよっ」

わかりやすく声がはずんでるのを自覚しつつ、身体を起こしてその場にあぐらをかく。

「そっか。誕生日おめでとう、赤也。」

「へへっ、ありがとな。」

彼女からのたった一言だけで幸せな気分になれるから不思議だ。

「そんな…私が言いたかっただけだし。」

なんでか口ごもる彼女が可愛くて顔がゆるむのが自分で分かる。

ニヤニヤしてた俺だけど、スマホ越しに風の音がしてるのに気付いた。

「なあ、もしかして今って外にいんの? こんな時間に?」

「えっと……実は、赤也の家の前にいたりして。」

「はぁ!?」

思わず叫んだ俺は、勢いよく立ち上がって部屋のカーテンを開ける。

下を見れば、家の前の道路にスマホを片手に立っている彼女の姿があった。



そおっと静かに階段を下りて、音を立てないように玄関のドアを開けて外に出た。

「お前っ、何考えてんだよ。こんな夜中に。」

声が大きくなりそうなのを抑えて小声で話す。

「ごめん。電話しようって起きてたら、やっぱり直接会って言いたいなって思って……来ちゃった。」

反省した様子がないけど、少し照れた顔で笑う彼女に怒るなんて無理だ。

とはいえ、言うべきことは言っておかないと。

「それは嬉しいけどさ、心配するじゃん。こんな夜中に一人で出歩くなんてよ。」

会いに来てくれたことはめちゃくちゃ嬉しいけど、夜中に女の子が一人なんて危険だ。

「ごめんなさい。それと……赤也、誕生日おめでとう。」

「ん、ありがとな。」

改めて祝福の言葉を言ってくれた彼女の身体をぎゅっと抱き締める。

「あっ、赤也…っ」

「身体、冷えてんじゃん。」

上着は着ているとはいえ、今日はけっこう冷え込んでるから。

冷たくなってる髪を片手で撫でながら、俺の服を掴んでる彼女のつむじを見つめる。

「大丈夫だよ。」

「ぜんぜん大丈夫じゃないだろ。送ってく。」

身体を離して彼女を見るとその頬はさっきよりも赤くなっていた。

それが自分のせいだと思うと、照れる彼女が可愛くて仕方ない。

「なまえ、可愛い。」

誕生日プレゼントの代わりってことで、無防備な彼女の唇に軽く口付ける。

「んじゃ、行くか。」

「…うん。」

耳まで紅くした彼女に手を差し出せば、そっと手を重ねてくる。

自分よりも小さな手を握り返して歩き出す。

ザアッと吹いた冷たい風に見上げると、空気の澄んだ夜空に星が瞬いていた。


(2023.09.25)

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