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恋人(同学年)/ヒロイン視点


「……う、ん…………起きないと…」

枕元の目覚まし時計のアラームを止めて眠い目を擦りながら起き上がる。

ずっと早起きをしているけれど、全然慣れない。

二度寝の誘惑をどうにか断ち切ってベッドから出て、ぐぐーっと伸びをする。

カーテンを開けて外を見れば、すでに明るい空は気持ち良く晴れていた。



澄んだ朝の空気を吸いながら、まだ人の少ない公園を弦一郎と一緒に歩く。

学校へ行く途中にある公園を二人で散歩するのが朝の日課になっているのだ。

もともとは、朝練のために早く登校する弦一郎に私が勝手に時間を合わせていた。

少しでもいいから二人きりで過ごせる時間を作りたくて。

最初は一緒に登校するだけだったけれど、いつだったか弦一郎から散歩に誘ってくれた。

それ以来、ほぼ毎日この早朝デート―少なくとも私はそう思っている―をしている。

デートと言っても、一緒に登校する時と同じよう話をしながら歩いているだけで、手を繋いだりなんてこともないのだけれど。

それでも、私にとっては何ものにも代え難い大事な時間だ。

短い時間であっても共に過ごせることが嬉しいし、ほぼ毎日会っていても話題は尽きない。

「お前はいつも楽しそうだな。」

珍しく私の言葉を遮った弦一郎に首を傾げる。

「どうかしたの?」

「俺は女子というか、お前を楽しませるような話は出来ん。それで、俺と居ても退屈しているのではないかと思う事があるのだが……しかし、お前はいつも本当に楽しそうに笑っていて…」

「楽しいよ。弦一郎と一緒にいて、楽しくない筈がないもの。」

本当だよ、という意味を込めて、にっこりと笑いかける。

「っ、……そうか。」

「うん。」

面食らったのか、ちょっと面白い顔をした弦一郎は私から視線を外して真っ直ぐに前を向いた。

やっぱり好きだなと、わざとらしく顰められた横顔を見ながら心の中が温かくなるのを感じる。

弦一郎は甘い言葉なんて言ってくれないけれど、私のことを大事にしてくれている。

「なまえ。」

滅多に呼ばれない下の名前を低い声で紡がれて、小さく鼓動が跳ねた。

「なあに?」

「いつも有難う。」

やけに真剣な眼差しを向ける弦一郎に、私は目を瞬かせる。

今の会話の流れで弦一郎が私にお礼を言うようなことがあっただろうか。

「どうしたの、急に?」

「俺は、傍で笑っていてくれるお前の存在に支えられている。だから、お前にはいつも感謝しているのだ。だが、言わなければ伝わらんだろう。」

「……ありがとう、弦一郎。」

言葉にしてくれたのが嬉しくて、胸の中が温かいもので満たされる。

「何故お前まで礼を言うのだ。」

「私も弦一郎に感謝しているから。」

「俺は……お前に何もしてやれていないだろう。」

「そんなことないよ。それに……私だって、何も役に立つようなことは出来て…」

「そのような事は無い! ……いや、済まない、大きな声を出して。」

「ううん。」

「……とくかくだな、…」

ゴホンと咳払いをした弦一郎は再び私を見る。

「俺はお前に感謝しているという事だ。」

「うん。それで、私も弦一郎に感謝しているからね。」

「う、うむ。」

自分がお礼を言われるのはあまり納得いかないのか、弦一郎は少し居心地が悪そうだ。

きっと弦一郎は自分では分かっていないのだろう。

自分が私に与えてくれているものに。

「ねぇ、弦一郎…明日も一緒に散歩しようね。」

「ああ。」

当然のように、すぐに答えが返ってきて、私の頬は緩むのだった。



誠実な貴方でいて

(2011.06.08)

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