2/2 ヒロイン視点 「すごくきれいですね。トンネル水槽ができてから来たのは初めてなので感動です。」 「ああ、俺もリニューアルオープンしてから初めて来たが…これ程とはな。」 見上げると、自然の光が差し込んでいて、揺れる水面や泳ぐ魚がキラキラしている。 「あっ、イルカが泳いでますよ。」 「ペンギンもいるぞ。」 「えっ、どこですか?」 「あそこだ。」 柳先輩が指差した先を見ると、ペンギンが飛ぶように泳いでいた。 「わぁ…すごいですね。水の中だと本当に鳥みたいです。」 「そうだな。」 「そういえば、イルカショーがあるんですよね?」 「ああ、ここを見てから向かえば丁度いい時間になる筈だ。」 「そうなのですか?」 もしかして、どう回るかきっちり計画を立ててあるのだろうか。 詳しいことはよくわからないれど、柳先輩は”データマン”で、計算がすごく得意らしいから。 「ああ。だが、急ぐ必要はない。ゆっくり見ても間に合うからな。」 「はい。」 優しく笑いかけてくれる柳先輩に私も笑顔を返して、繋いでいる手を握り直した。 イルカショーを見た後、私たちは館内のおみやげショップにいた。 せっかくだから、なにか一つくらいグッズを買おうと思うのだけれど、いろんなものがあって目移りしてしまう。 「大分迷っているようだな。」 「すみません、お待たせしてしまって。」 「いや、俺も楽しんでいるから気にするな。…そう言えば、先程はイルカの芸に感激していたな。」 言いながら、柳先輩は近くにあった水色のイルカのぬいぐるみを手に取った。 柳先輩と可愛らしいぬいぐるみという組み合わせに、思わず少し笑ってしまう。 あまり似合わないのが、なんだか逆にほほえましくて。 自分も色違いのピンク色のイルカを取って触ってみると、ふかふかしていて気持ちがいい。 それに、ちょっと口を開けているイルカの顔は愛嬌があって和む。 「これにしようかな。」 賢くて優しいイルカは、少しだけ柳先輩を連想させるような気がしたから。 「色はどうするんだ?」 「水色にします。」 「分かった。では、少し待っていてくれ。」 柳先輩は私が止める間もなく、イルカのぬいぐるみを持ってレジのほうに歩いていってしまった。 「ありがとうございます、柳先輩。」 イルカのぬぐるみの入っている袋を受け取った私は、それを両腕で大事に抱えた。 「この子、大事にしますね。」 「ああ、そうしてやってくれ。」 「はいっ」 返事をした後に気づいて、片手にショップの袋とバッグを持ち直す。 空いた手を差し出せば、柳先輩はすぐに私の手を握ってくれた。 「ところで、写真は撮らなくていいのか? カメラは持って来ているのだろう?」 そう言われて、バッグに入っているカメラの存在を今さらながらに思い出し、私はがっくりと肩を落とした。 「楽しすぎて、すっかり忘れていました…」 「お前らしいな。一つに事に夢中になってしまうのは。」 小さく笑って言う柳先輩にあきれたような雰囲気はなくて、その声は穏やかで優しかった。 「今日の事はずっと忘れないだろうが…折角だ、今からでも一緒に撮らないか?」 見上げた先の温かな微笑みに、本当に好きだなと甘やかな感情が胸に広がる。 この人が隣にいてくれれば、それだけで心が満たされる。 「はいっ、私も柳先輩と一緒に撮りたいです。」 私も今日のことは絶対にずっと覚えているけれど、やっぱり形にも残しておきたいと思う。 そして、これからも二人で一緒にたくさんの思い出を作っていきたい。 ※タイトルに入っている『記念日』は桃(ピンクの花)の花言葉の一つです。 ← |