1/2 ヒロイン視点 お母さんに頼んで雑誌に載っていたヘアアレンジをしてもらい、決めてあった服に着替える。 友達に相談したら「女の子らしい服がいいに決まってる!」と強く言われて、自分が持っている中から一番可愛いだろう服を選んだ。 上はリボンタイがついた半袖の白いシフォンブラウスで、下は裾がふんわりしたシルエットの淡いミントグリーンのキュロットだ。 どちらも去年のものだけれど、まだ数回しか着ていないから真新しい。 「…あ、靴も出さなきゃ。」 スタンドミラーの前に立とうとしたところで思い出し、私は部屋の隅に置いてあった箱から新品の靴を取り出した。 シンプルなベージュのぺたんこ靴は先週の日曜日に友達に付き合ってもらって買ったもので、フロントには細いリボンがついている。 ヒールのある靴も気になったけれど、慣れていないから転びそうだなと思って、これにした。 「ちゃんと合ってる、よね?」 靴を足元に置いて鏡の中の自分を見るけれど、いつもと違う姿がなんだか少し気恥ずかしい。 いつもは写真を撮る時のことを考えて、動きやすさを重視した格好をすることが多いから。 だけど、今日は初デートという特別な日だから、背伸びしてでも可愛くしたい。 というか、柳先輩に可愛いと思われたい。 その…柳先輩なら、なにを着ても可愛いと言ってくれそうではあるけれど。 (なんて、さすがにうぬぼれ過ぎかな。) 「すみませんっ、お待たせしてしまって…!」 遅れないように早めに家を出たけれど、待ち合わせ場所にはもう柳先輩の姿があって、私はあわてて駆け寄った。 「大丈夫だ、俺も来たばかりで待ってはいない。それに、まだ約束の時間まで余裕がある。」 「そ、そうでしたか。」 ほっとした私はあらためて柳先輩を見て、胸を高鳴らせた。 今日の柳先輩は細身の麻のパンツをはいて、白いシャツに涼しげな薄いグレーのサマーセーターを着ていてる。 シンプルなスタイルなのに、すごく格好よくて素敵だ。 そして、やっぱり大人っぽくて、隣にいるのが私でいいのだろうかと少し不安になってしまう。 「今日は一段と可愛いな、なまえ。」 「っ、……そう、ですか?」 一気に頬が熱くなるのを感じながら柳先輩を見上げると、甘く微笑まれて、ますます頬の熱が上がってしまう。 「お前はいつも可愛いが、今日は特別だな。俺の為に頑張ってくれたのだから。」 「ええと、……その…」 気づいてもらえなかったら悲しいけれど、そんなにはっきりと言われると恥ずかしくなってしまう。 「違うのか?」 「ちっ、違わないです。」 「…そうか。」 私の答えを聞いた柳先輩の顔がどこなく嬉しそうに見えて、頑張って良かったなと思う。 「では、行くとしよう。」 「はいっ」 当然のように手を取られて、自分の手を包む大きな手をきゅっと握り返した。 「柳先輩、この子すごく可愛いです! ひょこひょこ動いてて…っ」 私が展示の水槽を覗き込んで中で泳いでいる魚に夢中になっていると、隣で小さく笑う気配がした。 ちらりと横を見たら、思いのほか近くに柳先輩の顔があって、身を乗り出していた私はあわてて背筋を伸ばした。 「どうした?」 「い、いえっ、なんでもありません! ええと……次はあちらに行きましょう…っ」 水族館の中は照明が暗めだけど、顔が赤くなっているのは、きっと柳先輩にはお見通しだろう。 そう思うと、余計に恥ずかしくなってしまって、いっぱいドキドキしてしまう。 だけど、それは不思議と心地よくもあった。 |