1/2 ヒロイン視点 今日は柳先輩と一緒にお昼を食べることになっていて、私は朝からすごく浮かれていた。 だけど、屋上の花壇のそばにあるベンチでお弁当を広げようとしたところで、柳先輩を呼ぶ声が聞こえてきた。 柳先輩を呼びに来たのは生徒会の人で、なにか急ぎの用件だったらしく、柳先輩は私に謝ると屋上を出て行ってしまった。 (どうしようかな。) 教室に戻れば友達がいるけれど、今日は風もあって気持ちがいいから屋上に残って過ごすのも良いかなと思う。 でも、本当は柳先輩と二人で過ごす予定だったから一人は淋しかったりもする。 「可哀相に、フラれてしまったのぅ。」 「えっ!?」 やっぱり教室に戻ろうかなと考えていたら、急に声が降ってきた。 特徴的な話し方から声の主が仁王先輩だというのはわかるけれど、きょろきょろ周りを見ても姿はない。 「上じゃよ、上。」 そう言われて視線を上げると、青空を背にした仁王先輩が給水塔の上に立っていた。 「あっ、危ないですよ…っ!」 「大丈夫じゃよ。いつもの事やき。…よっと。」 私の心配をよそに、仁王先輩は2メートルはあるだろう給水塔の上から飛び降り、軽々と着地した。 「一人で飯は淋しいじゃろ? 優しい俺が付き合っちゃる。」 独特の笑みを浮かべた仁王先輩が私の隣に腰を下ろす。 「ええっと…ありがとうございます。」 少し戸惑いながらもお礼を言えば、大きな手でくしゃりと頭をなでられた。 仁王先輩によると、私の頭はなで心地が良いそうで、会ったら必ずと言っていいほど私の頭をなでる。 「仁王先輩、お昼ごはんはどうされるのですか?」 背中を丸めて座っている仁王先輩はなにも持っていないけれど、時間的にお昼を食べ終えたとは思えない。 「今日は財布を忘れたけぇ、昼飯は抜きなんじゃ。」 「大丈夫ですか? 部活がありますのに…」 お昼抜きでハードな練習をするのはかなり辛いだろうと心配になるけど、私はあまりお金を持ってきていない。 「仕方ないから諦めるナリ。」 「…あの、仁王先輩。よろしければ、私のお弁当を食べませんか?」 ぜんぜん量が足りないだろうけれど、ないよりはましだろうと思い、ふたを開けたお弁当箱を差し出す。 「いいのか? すまんの。」 「いいえ、お気になさらずに。どうぞ、お好きなものを召し上がってください。」 遠慮しているらしい仁王先輩に、にこにこと笑顔を向ける。 「ありがとさん。お前さんは良い子じゃな。」 お弁当箱を受け取った仁王先輩がゆるく笑う。 「いえ、そんな……少し待ってくださいね、フォークがありますので。」 ふたの内側から付属のフォークを外して、それも手渡す。 本当は箸のほうがいいのだろうけど、いつも私が使っているものでは申し訳ないから。 「どうぞ、仁王先輩。私は残ったものを食べますから、遠慮なさらないでくださいね。」 「悪いのぅ。ありがたく頂くぜよ。」 持ち手がピンク色のフォークを受け取った仁王先輩は、さっそくそれをケチャップのついたミニハンバーグに刺した。 仁王先輩には悪いけれど、小さなフォークを使っている姿はなんだかちょっと可愛い。 でも、柳先輩には似合わないだろうなと、上品に箸を使う姿を思い出す。 食事の時に限らず、柳先輩は所作が美しい。 それに、表情に品があって、物腰は落ち着いていて、すごく素敵な人だ。 そんな人が自分の恋人だというは、今でも信じられない時がある。 |