私はあなたに夢中 | ナノ

ヒロイン視点


なんだか校門のあたりがいつもより騒がしいなと思っていたら、先生や風紀委員の人たちが立っていて、頭髪・服装検査が行われていた。

抜き打ちだったから、校門の手前で制服や髪を直している生徒がけっこういる。

自分はといえば、スカートの丈は短くしていないし、ブラウスのボタンは一番上まで留めていて、ネクタイもちゃんと結んでいる。

髪も染めていないし、校則に違反するようなヘアアクセサリーもつけていない。

これなら大丈夫だろうと思い、そのまま歩いていく。

「おはようございます、真田先輩。」

私はピシッと姿勢を正して、腕章をつけて立っている真田先輩にあいさつをした。

「ああ、おはよう。…みょうじ、ネクタイが少し歪んでいる。細かい部分だが、服装の乱れは心の乱れだ。ちゃんと直しておくように。」

「はっ、はい、すみませんでした…っ」

まさか注意をされるとは思っていなかった私は、あわてて頭を下げて真田先輩の前を通り過ぎた。

実はネクタイを結ぶのは苦手で、いまだにうまく結べないのだ。

毎朝きれいに結べるまで何回かやり直すのだけれど、今日は少し寝坊してしまって時間がなかった。

教室に行ったら直そうと思いながら、ふと気になることが浮かんできた。

仁王先輩や丸井先輩は髪の色のことで真田先輩になにも言われないのだろうか。

(もしかして、地毛なのかな?)

そんなはずはないとは思うけれど、染めているのなら先生だって注意するはずだ。

(…謎だよね。)



「みょうじ、お早う。」

「柳先輩!」

生徒玄関で上履きに履き替えていると、廊下を通りかかったらしい柳先輩に声をかけられた。

「おはようございますっ」

朝から柳先輩に会えたのが嬉しくて、自然と笑顔がこぼれる。

急いで靴箱のふたを閉めて、足を止めて待ってくれている柳先輩のもとに行く。

「服装検査には引っ掛からなかったか?」

「それが…注意を受けてしまいました。」

怒られたわけでもないのに、なんとなく声が小さくなってしまう。

「注意を? …ああ、ネクタイが少し縒れているな。」

「その、今朝は時間がなくて急いでいたもので…」

ネクタイが上手に結べないとは言いづらくて、そう答えるけど、嘘というわけでもない。

「俺が直してやろう。悪いが、これを持っていてくれ。」

「は、はい。」

言われるままに、柳先輩から数枚のプリントを受け取る。

風紀委員が活動しているから、生徒会の役員である柳先輩もなにか仕事があるのだろうか。

目の前に立った柳先輩の長い指が私のネクタイにかかり、するりと結び目が解かれる。

そして、男の人にしては少し細い指が襟元で器用にネクタイを結んでいく。

(なんだか…ドキドキしちゃうな。)

少しずつ胸の鼓動が速くなってくるのを感じる。

ちらりと視線を上げて柳先輩を見ると、思いっきり目が合った。

「出来たぞ。」

「あっ、ありがとうございます。」

なんだか変に照れてしまって、柳先輩から目をそらしてうつむいてしまう。

「どういたしまして。」

柳先輩が小さく笑ったのが聞こえて、くしゃりと髪をなでられた。

頭をなでられたことは何回もあるのに、なぜだか頬が熱を持つ。

「朝から仲良いッスねー」

少しあきれたような声に横を向くと、頭の後ろで両手を組んだ切原先輩が立っていた。

「何か問題があるのか?」

「えっ、いや、問題っつーか…かなり目立ってるんスけど。」

そう言われて、私は登校してきた他の生徒たちにちらちらと見られていることに気づいた。

「あっ、ああのっ、失礼します!」

耳まで真っ赤になった私は柳先輩にプリントを押し付けて、小走りでその場から逃げ出した。

 

※タイトルは桃の花言葉の一つである『あなたしか見えない』を改変してつけました。


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