私はあなたに夢中 | ナノ

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ヒロイン視点


「やはり此処に居たのか、精市。みょうじも一緒だとは思わなかったが。」

耳に届いた落ち着いた声に嬉しくなって振り返れば、柳先輩が花壇のそばに立っていた。

「柳先輩、こんにちは。」

「ああ、こんにちは。」

柔らかく微笑みかけられるのはいつものことなのに、トクンと胸が高鳴る。

「悪いな、柳。大事な彼女を借りていたよ。」

「ゆっ、幸村先輩…っ?!」

勢いよく幸村先輩のほうを向いたら、くすっと笑われてしまった。

「何か違ったかい?」

「違わないが、あまりからかうな。みょうじが困るだろう。」

「からかったつもりはないんだけど。…ごめんね、みょうじさん。」

「い、いえ…っ」

どうにも照れてしまって、顔が熱くなってくる。

「じゃあ、作業はこれで終わりにしようか。道具は俺が片付けておくから。」

「はい。申し訳ありませんが、よろしくお願いします。お疲れさまでした。」

「うん、お疲れ様。手伝ってくれてありがとう、助かったよ。」

使っていたハサミと軍手を幸村先輩に返して、花を踏まないように気をつけながら花壇から出る。

「ところで、柳は俺を探していたようだけど?」

「今日は薄曇りだが気温は高いからな。無理をしていないか様子を見に来た。」

「全く…真田といい、過保護だなぁ。」

「仕方無いだろう。大事な時期でもあるからな。お前に言う必要は無いだろうが、水分補給は小まめにな。」

「ああ、わざわざありがとう。」

幸村先輩は軍手を外して、柳先輩からミネラルウォーターのペットボトルを受け取る。

「くれぐれも無理はするなよ。」

「分かっているさ。」

幸村先輩は小さく肩をすくめてから、私に視線を向けた。

「みょうじさん、さっきの件よろしくね。」



まだ写真は撮っていなかったけれど、私は柳先輩と一緒に屋上を後にした。

「先程は精市と何か約束していたようだが?」

「はい、私が今までに撮った花壇の写真を見せて欲しいとお願いされました。」

「そうだったのか。あいつは花が好きだからな。ところで、明日は昼食を共に出来そうなのだが…」

「本当ですかっ?!」

柳先輩が最後まで言い終わらないうちに声を上げてしまい、小さく笑われる。

でも、柳先輩はいろいろと忙しくて、一緒にお昼を食べられることは少ないから、すごく嬉しい。

「その様子なら、お前の予定は大丈夫らしいな?」

「は、はい……では、いつもの場所で待ち合わせですね。」

「ああ。念のために言っておくが、もし授業が遅く終わっても急いで廊下を走らないようにな。」

「う…分かっています。その場合は早歩きにしておきます。」

「…仕方ない、その位は大目に見よう。」

また柳先輩に笑われてしまったけれど、仕方ないと思う。

同じ学校でも、いつも一緒にいられるわけではないから、会える時は少しでも早く会いたくなるのだ。

「気持ちは分かるからな。俺も、少しでも長くお前と一緒にいたいと思っている。」

ぽんと頭の上に大きな手が乗せられて、そのまま頭を優しくなでられる。

「そっ、そうですか。」

「ああ。」

柳先輩はこういうことをはっきり口に出して言うから、私はいつもドキドキさせられっぱなしだ。

でも、想いを言葉にしてもらえるのは嬉しいし、幸せなことだと思う。

だから私は、照れながらも柳先輩に笑顔を返した。


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※『矢車菊(やぐるまぎく)』は幸村くんの誕生花(3月5日)の一つで、『優雅』は矢車菊の花言葉の一つです。


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