私はあなたに夢中 | ナノ

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ヒロイン視点


屋上の花壇の手入れをしているその人は、とても優しげな表情で花を見ていた。

(すごい…綺麗な人。)

きっと、学校の制服を着ていなかったら女の人だと思ったに違いない。

咲き乱れる花に囲まれている姿は、それくらいに綺麗だった。

青みを帯びて見える黒髪はゆるくウェーブがかかっていて、きめの細かそうな肌は白くて…

「何か、俺に用かな?」

不意にこちらを見たその人と目が合ってびっくりしていると、その人は立ち上がって私のほうに歩いてきた。

「す、すみませんっ! えっと…」

不躾に見ていたこともあり、あせってしまい、しどろもどろになる。

「君、もしかして…みょうじさん?」

「はい、そうですが……どうして私のことをご存知なのでしょうか?」

初めて会ったはずなのに、と首を傾げる。

「柳から君の事を聞いていたんだ。カメラを持っているから、もしかしたらって思ってね。」

「柳先輩のお友達の方なのですか?」

「そうだよ。チームメイトでもあるんだけどね。」

「それでは、テニス部の方なのですね。」

でも、放課後の部活の時やこの間の練習試合の時には、たぶんいなかったと思う。

「部長の幸村精市だ。よろしくね、みょうじさん。」

「は、はいっ、よろしくお願いします、幸村先輩。私、みょうじなまえといいます。」

柔らかく笑った幸村先輩に、なんだかどきまぎしながら頭を下げる。

テニスの部長さんは少し前に手術を受けて退院した、と聞いていたけれど顔までは知らなかった。

「フフ…丁寧にありがとう。」

頭を上げると、やっぱり幸村先輩は柔らかい笑みを浮かべていた。

「ああ、そうだ。よかったら今度、花壇の花の写真を見せてくれないかな? 俺がいない間どんな様子だったのか知りたいんだ。」

「はい、私の写真でよければ今度お持ちしますね。」

「ありがとう、頼んだよ。」

ふわっと上品に笑う幸村先輩は繊細そうな雰囲気で、すごくテニスが強いとは信じられない。

前に切原先輩が”バケモノ”なんて言っていたけれど、幸村先輩は一体どんなテニスをするのだろうか。

「あの、お邪魔でなければ、花壇の手入れのお手伝いをさせてもらってもよろしいでょうか?」

「え…君が、かい?」

「はい。いつも写真を撮らせていただいているので、そのお礼といいますか。」

「俺は見てくれる人がいて喜んでもらえれば、それだけでいいんだけど。……折角だから手伝ってもうらおうかな。」

「はいっ、頑張ります!」



簡単な説明を受けた後、予備の軍手とハサミを借りて、私は咲き終わった花の花がら摘みを手伝っていた。

枯れた花をそのままにしておくと病気などの原因になってしまうから、種を取る場合をのぞいては、こまめに花がらを摘んだほうが良いそうだ。

それと花によっては切り戻しをするとまた新しい花が咲いて長く楽しめるらしい。

「みょうじさん、大丈夫かい? 疲れたら休んでいいからね。」

「ありがとうございます。私なら大丈夫です。」

少し手を休めて近くで作業をしている幸村先輩を見ると、額に汗を浮かべながらも穏やかな表情をしていた。

「幸村先輩は本当に植物がお好きなんですね。さきほどもですが、とても楽しそうに見えます。」

「うん…そうだね。世話をした花が綺麗に咲いたのを見るのは嬉しいし、こうやって土に触れていると心が落ち着くんだ。」

「…なんとなく、わかるような気がします。」

幸村先輩と笑顔を交わし、私はまた花がら摘みの作業に戻った。


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