私はあなたに夢中 | ナノ

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ヒロイン視点


「否、謝る程の事では無い。」

蓮二くんはカメラから目を離して、しょげている私の頭を片手でなでてくれた。

「たった一つだけなら、上手く撮る自信があるのだがな。」

「一つだけ、ですか?」

それはなんだろうと首を傾げると、蓮二くんはカメラのレンズを私に向けてシャッターボタンを押した。

「れ、蓮二くんっ?! 今のは消してください! 私、絶対に変な顔をしていましたから…っ」

完全に油断していた私は、あわてて蓮二くんからカメラを取り返そうとするけど、簡単にかわされてしまう。

「ちゃんと上手く撮れているぞ。」

「…嘘です。」

私は眉を寄せながら蓮二くんを見上げる。

「嘘じゃないさ。愛しい者を見ている時、人は良い表情をしているものだからな。」

臆面もなく言って、蓮二くんは私を見つめながら甘く微笑む。

顔…だけじゃなくて、身体まで熱くなってしまう。

「俺の思い違いではあるまい?」

「……そっ、そうです、けれど……その…」

もちろん蓮二くんのことは大好きだけれど、なんだか無性に恥ずかしい。

真っ赤になって口ごもる私に向かって、蓮二くんはまたシャッターを切った。

「もう撮っちゃだめです…!」

今度こそカメラを取り戻そうと手を伸ばす。

けれど、かわされてバランスを崩し、私は蓮二くんの胸に飛び込むような形になってしまった。

「ごっ、ごめんなさい!」

急いで離れようとしたら、背中に蓮二くんの腕が回って、ふわりと抱き締められた。

「蓮二、くん…?」

カメラを板張りの床に置いたらしい音が聞こえた後、耳元に蓮二くんの息遣いを感じた。

心臓が大きな音を立てる。

「駄目だな、俺は。お前が愛しいという気持ちに負けてしまいそうだ。」

どこか切なそうな蓮二くんの声に、胸の奥がぎゅっとなる。

もう心臓が痛いくらいだけど、私は蓮二くんの背中にそっと手を回した。

その瞬間、かすかに蓮二くんの身体が揺れたような気がした。

「どうして、お前はこんなにも…」

言葉を途切れさせた蓮二くんの腕の力が強くなって、きつく抱き締められる。

「堪らなくなるよ、俺は。」

「蓮二くん……どうされたのですか?」

いつもと様子が違う蓮二くんに、本当にどうしてしまったのだろうと心配になる。

「なまえ。」

少しだけ身体を離した蓮二くんは、私の頬を指の背で愛おしげになでた。

「お前に、口付けてもいいだろうか?」

その言葉に、私の鼓動は高く跳ねた。

蓮二くんの静かな熱情を帯びた瞳に見つめられて、胸が震える。

「わ、私は……蓮二くんなら…」

それ以上は言葉にできなくて、私は蓮二くんの服をぎゅっと握った。

熱くなっている頬に大きな手の平が当てられる。

「有難う。」

目を伏せた蓮二くんが顔を傾けてきて、私はぎゅっと目を瞑った。

慈しむように優しく、温かなものが私の唇に触れた。

少しの間だけ重なった唇がゆっくりと離れていき、見た目よりもたくましい胸に抱き寄せられる。

私の身体は優しく力強い腕にすっぽりと包まれてしまった。

「お前が好きだ、なまえ。」

耳元に吐息混じりの囁きが吹き込まれ、頭の中が甘く痺れたような心地になる。

「私も大好きです、蓮二くん。」

包み込んでくれる温もりに幸せを感じながら、蓮二くんの胸から顔を上げる。

優しげな微笑みを浮かべて私の髪を梳くように撫でている蓮二くんの頬に、私は自分の唇を触れさせた。

「私、すごく幸せです。」

「ああ、俺もだ。お前がいてくれて、俺は幸せだ。」

噛み締めるように言って、私の頭を自分の胸に埋めさせる蓮二くん。

その頬には、ほんの少しだけれど赤みがさしていた。


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※タイトルに入っている『愛の幸福』は桃の花言葉の一つです。
※冒頭に出てきた桔梗(ききょう)の花言葉は『変わらぬ愛』『誠実』『優しい愛情』などです。


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