1/2 ヒロイン視点 すらりと伸びた細い茎に、星のような形をした桔梗の花が咲いている。 ふくらんだ風船のような可愛らしいつぼみも見える。 涼しげな紫色の花と色づいたつぼみをファインダーに収め、シャッターを切る。 そして今度は、隣に咲いている白い桔梗も一緒に写るようにカメラを構える。 「なまえ、少し休憩にしてはどうだ?」 素敵な庭に咲く花たちを夢中で撮っていた私の耳に、その声は真っ直ぐに届いた。 写真を撮っている時に話しかけられても気づかないことが多いけれど、この声は特別だ。 しゃがんでいた私は立ち上がって、声の主である大好きな恋人を振り返る。 「はい、蓮二くん。」 庭に面した縁側に座ると、お盆を持った蓮二くんは私のすぐそばに膝をついた。 「そろそろ喉が渇いただろう。それと、頂き物の桃があったのでな。」 「ありがとうございます。」 よく冷えている麦茶と一緒に出されたのは、きれいなくし形に切られてガラスの器に盛られた白桃だ。 見るからにみずみずしい桃の甘く優しい香りが鼻先をくすぐる。 「桃が好きなようだな?」 私の隣に腰を下ろした蓮二くんは小さく笑っていて、また顔に出ていたんだなと少し恥ずかしくなる。 でも、そういうところが好きだと言ってもらったから、蓮二くんには素直に向き合っていたい。 それが小さなことであっても。 「はい、大好きなんです。香りも味も優しくて。」 「そうだな。上品な香りで、果肉は口当たりが柔らかい。」 「蓮二くんも桃がお好きなのですか?」 「ああ、果物の中では好きな部類に入る。」 「そうなんですね。」 同じものが好きだとわかって嬉しくなる私は単純だ。 「では、いただきますね。」 添えてあったフォークを手に取り、桃を口に運ぶ。 一口かじってみると、白い果肉はとろりとなめらかな口当たりで、たっぷりの果汁と甘い香りが口の中に広がった。 「とってもおいしいです。」 「それは良かった。」 蓮二くんは自然と笑顔になっている私を見て優しく笑うと、フォークの先を桃に刺した。 「そう言えば、今日はデジタルを使っているのだな。」 桃を食べ終えて麦茶を飲んでいると、そばに置いてあるカメラを見て蓮二くんが言った。 「はい。アナログカメラのフィルムは高くてあまり買えないので、今日はデジカメにしました。」 「そうか。しかし、最近ではフィルム自体が手に入りにくいだろう?」 「そうですね。ですから、写真部の先輩もデジカメを使う方が多いです。部長はもっぱらアナログですけれど。」 言いながら、私は愛用のデジカメを手に取った。 「私もどちらかと言えばアナログのほうが好きですが、デジカメで撮った写真を加工するのもおもしろいです。」 アナログにもデジタルにも、それぞれ良さがあると思う。 「こういう時のお前は本当に楽しそうだな。」 「はいっ、楽しいです。蓮二くんは私の話をちゃんと聞いてくださいますし。」 ふと思い付いて、デジカメを持ったまま蓮二くんのほうを向く。 「そうだ、蓮二くんも写真を撮ってみませんか?」 「俺が…?」 私の提案が意外だったのか、少し戸惑っている様子の蓮二くんにデジカメを手渡す。 「もし失敗してしまっても、いくらでも撮り直せますから。」 少したどたどしいながらも基本的な操作を説明すると、蓮二くんはすぐに理解してくれた。 「しかし、センスというものには自信が無いな。」 ファインダーを覗き、カメラをさまざまな花で彩られた庭へと向ける蓮二くんの横顔を見る。 「そうですか? 蓮二くんはセンスも良さそうですが。」 「以前にも言っただろう。何でも出来る訳ではないと。」 「あ…すみません。」 私からしてみれば、蓮二くんは頭が良くて器用で、なんでもできるような気がしてしまうのだ。 だけど、悪いほうにでなくても、決め付けてしまうのは良くないのだろうと反省する。 |