2/2 柳視点 なまえに付き合う形で、俺は宇治抹茶のかき氷を買った。 歩きながら食べるのはあまり行儀が良いとは言えないが、これが祭りの醍醐味というものだろう。 「なまえ、宇治抹茶も食べてみるか?」 「ええっと……では、一口いただきます。」 練乳のかかったイチゴ味のかき氷を食べていたなまえは、少し迷う素振りを見せてから頷いた。 小豆の乗っている部分を掬い、先端がスプーンの形になっているストローを淡く頬を染めているなまえの口元へ持っていく。 「ん……おいしい、ですね。」 「無理をしなくていいぞ。お前は苦い味が苦手だろう。」 一瞬だけ眉を寄せたのを見逃さず、少し笑いながら言うと、なまえは恨めしそうに俺を見上げた。 「知っていて食べさせるなんて、蓮二くんは意地悪です。」 「だが、食べてみたかったのだろう?」 「そ、それは……私、そんなに分かりやすいですか?」 「ああ、分かり易いな。」 「う…」 目に見えて複雑そうな顔をするなまえに優しく笑いかける。 「単純だと言っている訳じゃない。素直なのはお前の美点だ。そして、俺はお前のそういう所が好きだ。」 「っ、……あ、ありがとう…ございます。」 恥らう様子が可愛らしくて、俺は真っ赤になったなまえの頬を手の甲でそっと撫でた。 「よっ! 柳にみょうじ。」 「お、おい、ブン太…っ」 「んだよ、ジャッカル。」 唐突に湧いて出てきたのは丸井とジャッカルだった。 おそらくは、いつもの様にジャッカルが丸井に付き合わされているのだろう。 「こんばんは、丸井先輩、桑原先輩。」 「おう、こんばんは。悪いな、邪魔しちまって。」 「いいえ、そんなことないですよ。…それにしても、すごいですね。」 丸井に持たされたであろう大量の食べ物を抱えたジャッカルを見て、なまえは驚いている。 「まだまだこれからが本番だぜぃ。今日は屋台を全制覇する予定だからな。」 「全部ですか?!」 「程々にしておけ。」 更に驚いているなまえの横で呆れながら言うが、然して意味は無いだろう。 「大丈夫だって。余裕余裕。」 「お前も大変だな、ジャッカル。」 「はは…いや、まあ、俺も祭りは好きだからよ。」 そう言いつつも、ジャッカルは若干疲れたような笑みを浮かべている。 尤も、丸井の誘いを断らないのだから、本人なりに楽しんでもいるのだろう。 「そんじゃ、また学校でな。」 「はいっ」 「ああ。」 「じゃあな、二人とも。」 外灯が疎らな夜道に、二人分の下駄の音が響く。 辺りが暗くて心許無いのか、いつもよりも強く俺の手を握ってくる小さな手。 「蓮二くんは何でもできてすごいですね。」 「何でも、という事も無いが。」 「射的もヨーヨー釣りもお上手だったじゃないですか。…うらやましいです。」 自分では何も取れなかったのが悔しいのか、小さく頬を膨らませるなまえ。 「ならば、今度コツを教えよう。これから他の所でも祭りがあるからな。」 「約束ですよ、楽しみにしていますから!」 嬉しそうに笑うなまえに釣られて笑みを零していると、もう家の前に着いてしまった。 「今日は本当にありがとうございます。すごく楽しかったです。」 「ああ、俺も楽しかった。」 名残惜しげな顔をするなまえの手を引き、前髪を掻き上げてさっと額に口付ける。 「れっれれ蓮二くん…っ?!」 暗がりでも分かる位に顔を真っ赤にするなまえに柔らかく微笑む。 「お休み、なまえ。」 「……お、おやすみ…なさい、です…」 小さな声で言って、なまえは逃げるように家の中へと消えた。 俺は二階の部屋の明かりが点いたのを確認し、踵を返す。 一人になった夜道を歩きながら紫紺の空を見上げると、上弦の月が明るく輝いていた。 ※タイトルに入っている『純真』は桃(白い花)の花言葉の一つです。 ← |