私はあなたに夢中 | ナノ

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柳視点


燦々と太陽の日差しが降り注ぎ、空には大きな入道雲が聳え立っている。

熱を孕んだ風に吹かれた風鈴は涼しげな音色を奏でる。

縁側に座る俺の隣には愛らしい浴衣姿のなまえがいて、夏の花で賑わう庭を眺めていた。

「あの、どうかしましたか? 先ほどから、その…」

先程からずっと、黙って見詰めている俺に、なまえは少し戸惑った様子で訊ねてきた。

その至純な瞳が自分を映した事に満足しながら口を開く。

「お前が可愛いと思っていた。」

有りの儘を答えてやれば、予想に違わずなまえは耳まで紅く染める。

「……ありがとう、ございます。」

目を逸らして俯いたなまえの可愛らしい反応に、俺は密かに口元を緩めた。



「待たせたな。」

縁側に座って麦茶を飲んでいたなまえは、浴衣に着替えた俺を見るなり黙り込んだ。

「どうした?」

両腕を組んで落ち着いて振る舞うが、何かなまえの気に入らない部分でもあったのだろうかと俄に心配になる。

「その……素敵です、すごく。」

「…有難う。」

あくまでも平静を装うが、なまえの言葉を聞いた途端に安心している自分に内心で苦笑する。

「なまえ、少し前を向いていてくれないか。」

「? これでいいですか?」

なまえは不思議そうな顔をしながらも、麦茶の入ったコップを置いて庭の方を向いた。

「ああ、そのまま動かないでいてくれ。」

「はい、わかりました。」

俺はなまえの後ろで床に膝をつき、浴衣の袂に忍ばせていた髪飾りを取り出た。

少し考えてから、縮緬で作られた花の髪飾りを右耳の上の位置につける。

「よし、これでいい。」

「ありがとうございます。あの、見てもいいですか?」

「ああ、勿論だ。」

頷いてみせると、なまえはいそいそと浴衣と似た色合いの籠巾着から小さな手鏡を取り出した。

鏡を覗き込んだなまえはすぐに弾ける様に破顔し、俺を振り返った。

「とっても可愛いです、すごく気に入りました!」

「それは良かった。」

予想していた…いや、期待していた以上の反応を見せるなまえに笑みを返し、下駄を履いて庭に出る。

「では、行こうか。」

差し出した俺の手をなまえの小さな手がしっかりと握る。

「はい……蓮二くん。」

躊躇う様に僅かの間を置いて呼ばれた、自分の名前。

全く予想外のタイミングだった。

「…だめ、ですか?」

立ち上がったなまえが眉を曇らせて不安そうに俺を見上げてくる。

「いや、そんな事は無い。…嬉しいものだな。」

熱が集まった頬を隠すように、俺は口元を手で押さえた。

そんな俺よりも紅い顔をして、なまえが微笑む。

「蓮二くん、大好きです。」



夜の闇に浮かぶ提灯の明かり。

賑わう人々のざわめきに混じって聞こえる御囃子の音。

「けっこう大きなお祭りなのですね。」

神社に着き、すぐにでも駆け出してしまいそうな様子のなまえの手を握り直す。

「蓮二くん?」

「あまり離れるな。こう人が多いと、はぐれるかもしれない。」

「すみません。つい、はしゃいでしまいました。もう少し落ち着きますね。」

反省したのも束の間、きょろきょろと辺りを見回すなまえ。

その手を引き、行き交う人を避けながら歩く。

そんな俺の気苦労も知らず、なまえは楽しげに目を輝かせて夜店を見ている。

しかし、なまえになら振り回されても構わないと思うあたり、自分はこの小さな恋人に相当入れ込んでいるらしい。

「見ているだけでも楽しいですね、蓮二くん。」

「そうだな。だが、折角祭りに来たのだから、楽しんで帰らないとな。」

「はい、そうですねっ」

本当に楽しそうに笑うなまえを見て、自分も自然と笑みが零れる。

俺は、なまえが傍で笑っていてくれるだけで満たされる。

我ながら重症だと思いながらも、それが幸せだと俺は感じていた。


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