1/2 ヒロイン視点 「失礼しました。」 職員室のドアをそっと閉めてから、私は深いため息をついた。 (どうしよう…。) 頭が痛むのを感じながら、数学の教科書とノートを抱えて、放課後の廊下をトボトボと歩き出す。 「おや、みょうじさん。どうしました? そのように暗い顔をなさって。」 「あ、柳生先輩。こんにちは。……柳生先輩、ですよね?」 声をかけられて立ち止まった私は、じっと柳生先輩の顔を見た。 「安心して下さい。仁王君の変装ではありませんよ。」 「…そう、ですか。」 この前は二日連続でだまされてしまったから油断はできないけれど、柳生先輩は眼鏡のせいもあって表情が読めない。 「それはそうと、随分と浮かない顔をされていますが?」 「それが…数学の授業でわからないところがありまして。先生に聞きに来たのですが、説明してもらってもよくわからなくて…」 自分が情けなくて、だんだんと声が小さくなる。 「そうでしたか。それなら、柳君に聞いてみては如何です? 彼は教え方が上手いですし。」 「それは…ご迷惑になってしまいますから。」 「気にし過ぎですよ、みょうじさん。それに、貴女に頼ってもらった方が柳くんは喜ぶ筈です。」 「そういうものですか?」 首を傾げながら柳生先輩を見上げる。 「ええ。親しい間柄で遠慮されるほうが嬉しくないでしょう?」 そう返されて、蓮二くんにも同じようなことを言われていたなと思い出す。 「そうですね。蓮二くんの都合の良い時に教えてもらうことにします。ありがとうございます、柳生先輩。」 「いいえ、私は何も。ですが、お役に立てたのなら良かったです。」 柳生先輩は眼鏡を直しながら、ゆるやかに口角を上げる。 少しもからかわれなかったし、どうやら本当に柳生先輩みたいだ。 やっぱり気は引けたけれど、思いきって勉強を教えて欲しいとお願いすると、蓮二くんは一も二もなく引き受けてくれた。 さっそく放課後(今日は予定が空いているそうだ)に蓮二くんに勉強を見てもらうことになった。 そして、静かな場所のほうが集中できるだろうと、生徒会室に案内された。 持って来た数学の教科書とノート、それに問題集を長机の上に広げ、パイプイスに座る。 「では、早速始めるとしよう。」 「はい、よろしくお願いします。」 隣のイスに座った蓮二くんに、私は小さく頭を下げた。 ノートにすらすらと数式を書きながら、蓮二くんは丁寧に解説をしてくれる。 数学の先生には悪いけれど、蓮二くんの説明のほうがわかりやすい。 「これで説明は終わりだが、理解は出来たか?」 「はい……たぶん、わかったと思います。」 「多分、か。」 「すみません…」 ゆっくり説明してもらったのに一回でちゃんと理解できなくて、申し訳なさに肩を縮める。 「謝る事は無い。時間がかかっても、きちんと理解する事が重要だからな。もう一度説明しよう。それから練習問題だ。」 「はいっ」 基本問題はどうにか解けたけれど、応用問題で手が止まってしまった。 「うー……難しい。」 蓮二くんは席を外しているから聞くことができない。 それに、出来るなら自分の力で頑張りたい。 いったん頭を整理して考えようと、ノートの前のページをめくって達筆な字で書かれた説明を見る。 「大分困っているようだな。」 「ひゃっ!?」 急に後ろから声がして、私は驚いて肩をすくめた。 |