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忍足視点
全くもって退屈な授業。
教師の話の内容は耳に入ってこず、俺はみょうじと跡部のことを考えていた。
おそらく、二人の間に特に目立った進展は無い。
数日前に跡部がみょうじを部活に連れて来たが、みょうじは興味無さげにコートを眺め、程なくして帰っていった。
それから跡部には特に変わった様子は見られない。
ただし、迷惑なことにあまり機嫌は良くないが。
それよりも、心配なのはみょうじのほうだった。
口数も表情の変化も少ないから分かりにくいが、どこか沈んでいるようだ。
いや、もしくは何か考え込んでいるのか。
俺が勝手に心配しても意味は無いのだが、どうにも気になってしまう。
みょうじとは去年も同じクラスだったが、たまに話をするだけで、特に仲が良かったという訳ではない。
だが、放っておけないと思ってしまうのだ。
それはきっと、みょうじと俺はどこか似ているからだろう。
一度も口にしたことは無いが、互いにそう感じているのは何となく分かっていた。
● ● ●昼休みに入ると、珍しくみょうじから声をかけられ、二人で屋上へと移動した。
曇っていて少し肌寒い今日は、俺達の他には殆ど生徒がいなかった。
コンクリートの地面に直接腰を下ろし、購買で買ったパンをかじりながらみょうじが話し出すのを待つ。
「跡部は…元気?」
「え……普通に元気、やで?」
漸く口を開いたみょうじの予想外の問いに、俺は戸惑いながら答えた。
「そう。」
「ああ。」
「…私は恋をしたことが無いの。」
「は?」
何の脈絡の無いようなみょうじの告白に、間の抜けた声が出た。
思わず、自分の隣に座っているみょうじを見たが、みょうじは俺の視線には構わずに言葉を続ける。
「これからも無いと思う。」
どこか、自分自身に言い聞かせているように感じるのは、俺の気のせいだろうか。
「だから、私にはどうにも出来ない。」
それは、跡部のことなのだろう。
「別に何もせんでええんとちゃう? そもそも、どうにか出来るもんでもないやろ。」
本人の感情の問題なのだから。
「そういうもの? 分からないな、こういうのは…」
呟くように言ったみょうじの瞳には恋に憧れるような甘さは無く、ただ諦めに似た感情が見えた気がした。
「みょうじ…。」
俯いたみょうじの横顔を長い髪が隠した。
誰も君の心は動かし得ないそうではないことを君の為に祈ろう。
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