まだ恋を知らない | ナノ


ヒロイン視点


ここ数日は何事も無く過ごしていた。

尤も、一部からの視線は煩わしかったが。

けれど、その仮初の平穏は、またしても唐突に崩された。

放課後、帰ろうと教室を出た私の前に現れたのは、

「時間あるんだろ? 付いて来いよ。」

やはり、断られるなどとは微塵も思っていないらしい跡部だった。

「お前に拒否権は無いぜ。」

尊大な笑みを浮かべる跡部は私の返答を待たず、私の腕を掴んで歩き出した。



あまり抵抗するのも逃げているような気がして癪で、大人しく私が連れて来られたのはテニスコートだった。

周囲(主にギャラリーの女の子達)がざわついていたが、跡部のする事に誰も何も言わなかった。

跡部が何故、私をここへ連れて来たのか。

その意図するところは、何となく察せられる気がした。

何も偽る必要は無いという事か。

それ程の自信は一体どこからくるのだろう。

有りの儘の自分を晒すのは怖くないのだろうか。

いや、きっと跡部には恐れるようなものなど何も無いのだろう。

……そこまで考えると、胸がざわついた。



今日はレギュラー・準レギュラーが試合形式の練習をする日だったらしい。

私は座らされたコート脇のベンチから黙って練習試合を見ていた。

コート上に立つ跡部は、やはり自信に満ち溢れていた。

跡部の周りだけ空気が違って見えるような気がする。

気に入らないが、どうしても跡部の方にばかり目が行ってしまう。

きっと、あの派手な言動が無くとも跡部には人を惹き付ける何かがあるのだろう。

だからこそ、分からなくなる。

何故、そんな人が私を好きだと言うか。

私と跡部に接点など無かった。

これまでに会ったのは二度だけ。

初めて会った日と屋上で告白された日。

いずれも、まともな会話などしていない。

「おい、余所事ばかり考えてんじゃねぇぞ。」

突然降ってきた声に、思考に沈んでいた意識を引き戻された。

ラケットを片手に私を見下ろす跡部を無言で見上げる。

「お前は俺だけ見ていればいいんだよ。」

如何にも不機嫌そうな表情と声で言った跡部は、すぐに身を翻してコートに戻っていった。

そのまま思考を再開させる気にもならず、試合を見ることにしたが…

明確に聞き取れはしないものの、見当の付く会話をしているだろう声が耳に届く。

(煩い。)

突き刺さるような視線も感じる。

(鬱陶しい。)

最後まで試合を見る気にはなれず(そもそも義理も無い)、私はまだ試合が行われているテニスコートに背を向けた。



あなたは私を混乱させる

分からないと思うのは、理解する気が無いからだろう。


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