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跡部視点
日付が変わるまで一緒に居たいと、
一番に祝いたいからと、
そう言ってくれたなまえの気持ちだけで俺には十分だった。
「誕生日おめでとう、景吾。」
年代物の時計の短針と長針が文字盤の12を指して重なってすぐ、なまえは俺に向かって柔らかく微笑んだ。
「それから……これを君に。」
なまえはずっと傍らに置いていた学生鞄からリボンがかけられた箱を取り出して俺に差し出した。
「ありがとうよ。」
小さな箱を受け取り、リボンを解いて蓋を開けると、シルバーの金具に2連のチェーンと黒い薔薇のついたラペルピンが入っていた。
「へぇ、いいじゃねぇか。有り難く使わせてもらうぜ。」
「気に入って貰えて良かった。」
ラペルピンが入った箱をテーブルの上に置くと、なまえが俺の手を両手で優しく包んだ。
「生まれてきてくれて有難う、景吾。」
少し眩しそうに瞳を細めたなまえが俺にくれたのは、花びらが触れるような淡い口付けだった。
「君が此処に存在してくれる事に感謝を。」
愛おしげに俺を見つめる瞳に、胸が熱くなる。
「俺もお前の存在に感謝しているぜ。」
華奢な身体を隙間無く抱き締めて、絹糸のような柔らかな髪を撫でる。
細くしなやかな腕が背中に回って、俺を抱き締め返してくる。
「好きだよ、景吾。本当に君が好き。」
甘さを含んだなまえの声が耳を擽る。
「あー、くそ。帰したくねぇな。」
「いいよ。」
「…お前、意味分かってないだろ。」
この胸に込み上げる激情など。
「私が君にあげられないものなんて何も無い。」
「っ、……なまえ…っ」
その言葉に、俺は衝動に駆られて、なまえの身体をソファーに強く押し付けた。
ソファーに沈められたなまえは、酷く澄んだ瞳で俺を見上げる。
「君が望むのなら、私は何でも捧げる。」
「っ……」
その全てが欲しくない筈が無い。
だが、大事にしたいのも本当だ。
「今は、その気持ちだけでいい。ただ…少しだけ、俺にお前の時間をくれ。」
「…うん。」
押さえ付けていた肩と手首から手を離し、なまえの顔の横に肘を付く。
ゆっくりと顔を近付けていけば、なまえは黙って目蓋を下ろした。
目を瞑っているなまえの顔を見ながら、その薔薇色の唇を何度も奪う。
なまえは時折小さな吐息を漏らし、縋るように俺のシャツを握り締めている。
触れるだけの口付けに余裕の無い姿に、俺は小さく笑い、なまえの震えている目蓋に口付けた。
口付けを続けながら艶やかな髪を撫でていると、なまえが俺の頬に触れた。
「どうした?」
上から自分の手を重ねて細い手を握ると、なまえは瞳を和ませた。
「私はすごく幸せだなと思って。この手を伸ばした先には君が居る。」
「俺はいつでもお前の手を取る。だから、お前はずっと俺だけを望んでいろ。」
「うん、私は君しか求めない。この先もずっと。」
「それでいい。お前は俺にだけ、ずっと愛されていればいいんだよ。」
俺の言葉に頬を染めて微笑んだなまえに、啄ばむように何度も口付ける。
繰り返し重ねた唇を離せば、目を開けたなまえは真っ直ぐに俺を見詰めた。
その瞳を俺も見つめ返す。
「俺も幸せだぜ、なまえ。お前を愛しているから。」
なまえは出会った頃には想像さえ出来なかった、花が咲き綻ぶような微笑みを浮かべる。
「私も…永遠に君を愛してる。」
決して滅びることのない愛(2013.10.04)
※黒い薔薇の花言葉は『決して滅びることのない愛』『永遠の愛』『あなたはあくまで私のもの』『束縛』など。
※薔薇には黒という色素自体がないため、厳密な意味での「黒い薔薇」は存在せず、実際は限りなく黒に近い濃赤色だそうです。
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