まだ恋を知らない | ナノ


ヒロイン視点


授業が自習になり、教室を抜け出した私は屋上にいた。

快晴の空をフェンス越しにぼんやり見ていると、不意に背後で扉の開く音がした。

それには構わずに青空に視線を遊ばせていると、

「みょうじなまえだな。」

名前を呼ばれた。

何となく聞き覚えのある声に振り返ってみれば、そこには意外な人物が立っていた。

【跡部景吾】

おそらく、この学園で知らない人は居ないだろう。

何故、授業中にこんな所に居るのだろうか。

いや、それよりも、私の名前を知っていることのほうが疑問だ。

頭では考えているが特に何の反応を返さない私を、跡部は真っ直ぐに見据えている。

俄かに、その瞳の色が強くなった気がした。

「俺はお前が好きだ。」

「……そう。」

突然現れて告白してきた跡部に多少驚きはしたが、興味の無い私は素っ気なく返した。

跡部はそれを意に介する様子が全く無いどころか、その口許が不敵に歪められた。

「俺のものになれよ。」

まるで、拒否される事など想定していないかのような高慢な言葉。

「断る。」

簡潔な拒絶の言葉を吐いた私は冷酷だろうか、と他人事のように思う。

「…フン。簡単に靡かれてもつまらないからな。」

跡部は傲慢にも見える笑みを深くし、私の方へと歩み寄ってくる。

逃げる理由も必要も無い私は、近付いてくる跡部を黙って見ていた。

目の前に立ち、私を見下ろしてくる跡部を見上げる。

お互いの視線が絡む。

私の視線を受け、喉の奥で笑った跡部は、両手で私の後ろのフェンスを掴んだ。

フェンスと跡部の間に挟まれた状況は、あまり気分の良いものではない。

「離れて。」

一層冷えた声で放った私の言葉を無視し、少し屈んだ跡部が私の耳元で囁いたのは、

「これで終いじゃねぇぜ。覚悟しておけよ。」

まるで宣戦布告のような言葉だった。



必ず手に入れる

この俺に、手に入れられないものなど無い。


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