まだ恋を知らない | ナノ


ヒロイン視点


先程までの街の喧騒が嘘のように、夜の海は静かだ。

海岸線に沿って輝く街の光が綺麗で、私は船上から見事な夜景に見入っていた。

「寒くないか?」

後ろから伸びてきた手が、私の前にある柵を握る。

「大丈夫。それと、私は気にしていないから。」

景吾と柵に挟まれた私は、夜の景色を眺めたまま振り返らずに答える。

今日、景吾が私を色々な場所に連れて行ってくれたのは、埋め合わせのつもりなのだろう。

明日と明後日、景吾は家の仕事関係のパーティーがあり、私と一緒に過ごせないから。

「俺が嫌なんだよ。お前以上に優先したい人間なんて居ねぇってのに。」

「景吾…。」

「なまえ、少し目を瞑っていろ。」

「…うん。」

言われた通りに目を瞑ると、微かな物音がして、首に何か冷たいものが触れた。

「もういいぜ。」

目を開けて胸元に視線を落とすと、銀の鎖に繋がれた小さな白い薔薇が揺れていた。

「有難う。…白薔薇、なんだね。」

繊細な細工のペンダントヘッドにそっと触れる。

「気に入っただろう?」

少し笑いを含んだ景吾の声が耳を擽るけれど、悪い気はしなかった。

「うん、すごく。有難う。景吾、私からも…」

くるりと振り返って、コートのポケットに忍ばせていたプレゼントを景吾に差し出す。

「…如何したの?」

すぐには包みを受け取ろうとしない景吾は、少し戸惑っているようだった。

「いや、少し意外だったからな。開けてもいいのか?」

「勿論。」

包みを受け取り、丁寧にラッピングを解く景吾を、少し落ち着かない気持ちで見守る。

「ったく、無理しやがって。」

口ではそう言いながらも嬉しそうな顔をする景吾は、どうやら気に入ってくれたらしい。

「私があげたいって勝手に思っただけだから。」

景吾の言う通り、少し無理をして買ったのは、シンプルなデザインのシルバーのネクタイピンだ。

ブランド等はよく分からなかったけれど、それが一番良いと思ったから選んだ。

「そうか…ありがとうよ。」

「ううん。…景吾、君が私の特別だから。世間一般的に特別な日なんて、私にはどうでもいい。いつでも、景吾が居てくれたなら、それだけで特別だよ。」

「欲がねぇな、お前は。」

「そんな事は無いよ。すごく贅沢をしているもの。君を独占しているからね。」

「そうか。なら、俺も贅沢だな。」

綺麗に微笑んだ景吾が私の腰に手を回し、身体を引き寄せられる。

「そうだと、嬉しい。」

景吾にとっての特別が私なら、それ以上幸せな事は無い。

「バーカ。当然だろ。」

「…うん。……景吾、好き。」

景吾の肩に手を置き、少し背伸びをして唇を重ねる。

唇を離そうとすると、景吾の手が背中に回って、そのまま何度も啄むように口付けられる。

次第に口付けが熱を帯びていき、景吾に縋り付くと、きつく抱き締め返された。

幸せ過ぎて眩暈がする。



私はあなたに相応しい

(2011.12.23)
 

※白薔薇の花言葉は『尊敬』『あなたを尊敬します』『心からの尊敬』『恋の吐息』『私はあなたに相応しい』『相思相愛」など。


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