まだ恋を知らない | ナノ


ヒロイン視点


紙に印刷された活字を目で追うが、内容は全く頭に入ってこない。

先程からずっと私の横顔に視線を注いでいる跡部は一体何を考えているのか。

(意味が分からない。)

私は小さく息を吐いて読みかけの本を閉じ、跡部に視線だけ向けた。

「君は何がしたいの。」

「俺と話をしないか?」

「…何故、そんな必要が?」

「俺はお前のことが知りたい。そして…お前に俺のことを知ってもらいたい。」

跡部は誠実そうな目をしていて、私は酷く居心地が悪くなった。

「話す事なんて無い。私は…君の事なんて、知りたくない。」

だって、深く知ってしまえば、私は――

「そんな顔をするなよ。」

「…何?」

自分は今、どんな表情をしているというのか。

「迷子になって途方に暮れてる子供みたいだぜ?」

「っ、……」

どこか切なそうに微笑んだ跡部の声が優し過ぎて、私の胸は強く締め付けられた。

「みょうじ?」

これ以上ここには居られなくて、ベンチから立ち上がって跡部に背を向ける。

「待てよ。」

呼び止める跡部の声に、私は振り返らなかった。

いや、振り返ることが出来なかった。

「私に構わないで。」

声が震えそうになるのを堪えて、私は冷たく言い捨てた。

どうして、私はこんな風に言えてしまうのだろう。



中庭から離れて少し歩いた私は、立ち止まって校舎の壁を背にずるずるとその場に座り込んだ。

(最低だ、私は。)

跡部が追って来なかった事に安堵しながらも落胆している。

近付きたくない。

近付きたい。

相反する気持ちが胸の中で鬩ぎ合う。

「……っ、…」

涙が頬を伝うのを感じながら、私は震える自分の身体を抱き締めた。

知りたくなかった。

その存在は、私には眩し過ぎるから。

だけど、跡部は私の前に現れた。

一度刻まれた記憶は、もう消せないのか。



恋をする決心がつかない

臆病な心が認めようとしない。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -