ヒロイン視点 お昼休み、私は財前くんに連れられて、初めてこの学校の屋上を訪れた。 今日は空が青く晴れ渡っていて、とても気持ちが良い。 少し緊張しているような財前くんは時々言葉に詰まりながらもいろんな話をしてくれて、私は相槌を打ちながら聞いていた。 一生懸命に話してくれるのが微笑ましくて、男の子には失礼だけど、可愛い子だなと思う。 「少し待っててね。」 私は空になったお弁当箱を片付け、脇に置いてあった風呂敷包みを膝の上に乗せた。 淡い黄緑色に桜の花片が舞っている風呂敷包みを解けば、二段重ねの小ぶりな重箱が出てくる。 黒塗りに可愛らしいうさぎと花が描かれている重箱を自分の前に置いて蓋を開ける。 重箱の内側は朱塗りで、二つずつ詰めてある白色と淡紅色の大福が顔を出す。 「はい、どうぞ。白いのは粒餡で、ピンクのは白練餡だよ。」 説明しながら、一段目の重箱を両手で持って財前くんのほうに差し出す。 「ありがとうございます。…いただきます。」 財前くんが最初に手に取ったのは白い大福のほうだった。 前に善哉が好きだと言っていたから、粒餡のほうが好きなのかもしれない。 さっそく白大福にかじりついた財前くんはもぐもくと口を動かす。 味に満足してくれたのか、財前くんの表情がほんの少しだけど緩んだ気がした。 「うまいっす。」 「良かった。遠慮しないで食べてね。」 「はい。…大福って、三段とも入っとるんですか?」 「うん。でも、余っても気にしないで大丈夫だよ。残ったら、謙也くんにお裾分けすることになっているから。」 「謙也さん、と仲良えんですね?」 「うん、席替えで隣同士になってからは特に仲良くしてもらってるよ。謙也くんって優しいよね。転入したばかりで緊張してた時、よく話しかけてくれたの。」 「へぇ…そうなんですか。」 少し声が低くなったと思ったら、財前くんは食べかけの大福を一口で飲み込み、新しい大福を手に取った。 「そんなに急いで食べたら、喉に詰まらせちゃうよ?」 勢いよく大福を食べる財前くんを見て少し心配になった私は用意してあった紙コップにマグボトルからお茶を注いだ。 「別に、平気で…っ、…ごほっ」 「財前くん!? はい、お茶っ 熱いから気をつけてね…っ」 むせてしまった財前くんに慌ててお茶を渡して背中をさする。 「大丈夫?」 「…っ……、…すんません。」 お茶を飲んで、ふぅと一息ついた財前くんは申し訳なさそうに謝ると、下に視線を落とした。 「気にしなくていいよ。でも、ゆっくり食べてね? 大福は逃げないから。」 「…はい。」 よほど苦しかったのか、赤い顔をした財前くんはこくりと頷いた。 財前くんは黙々と大福を食べ続けて、あっという間に一段目が空になった。 「大福まだあるけど、食べる?」 「もらいます。」 念のために聞いてみれば、すぐに答えが返ってきた。 「男の子って本当にたくさん食べるんだね。」 大福は小さめに作ってあるとは言え、お弁当を食べた後なのにと、びっくりしながら空になった一段目の重箱を取って脇に寄せる。 「まぁ…育ち盛りなんで。」 そう言って、財前くんは次の大福に手を伸ばした。 なんとなくだけれど、ムキになっているような気がしなくもない。 でも、ムキになるような理由はないはずだから、きっと私の思い過ごしだろう。 いくらなんでも何個かは残るよね、と思いつつ、私も淡紅色の大福を一つ手に取った。 ← |