ひとめぼれ | ナノ


財前視点


ケータイの電話帳に登録されている先輩の名前を何回も見てしまう。

そんな自分が気持ち悪いと思いつつも、自分の部屋に一人でいるということもあり、口元は緩む。

放課後に街中で偶然に会った先輩に勇気を振り絞ってメアドを聞いたら、快く教えてくれたのだ。

赤外線でやり取りをして、ケータイのメアドだけでなく番号も知ることが出来た。

今日の俺はかなり頑張ったと思う。

(せやけど、なんてメール送ったらええんや?)

先輩は気軽にメールしていいと言ってくれたが、どんな内容を打てば良いのか分からない。

そもそも、今日はメールをするべきなのだろうか。

アドレスを教えてもらったのだから、さっそくメールしたほうが良いような気もするが、がっついてるとか思われてしまうのではないかと心配にもなる。

「はぁ……情けな。」

先輩のこととなると、いろんなことがやたら気になって考え込んでしまう。

他の奴になら、どう思われても全く気にならないというのに。

【惚れた弱み】とはよく言ったものだ。

「ほんま、どないしよ……」



 Date 21:32
 From 財前 光
 Sub. こんばんは
 ――――――――――――――――――――――
 アドレス教えてもろてありがとうございました
 これからもよろしくしたってください
 ほな、またメールします



さんざん悩んだ末に俺が打ったのは、当たり障りのないだろう文面だった。

本当にこれでいいのか不安だが、他に思いつかない以上は仕方がない。

俺は意を決して、メールの送信ボタンを押した。

送信完了のメッセージを見て、俺は無意識に止めていた息を吐き出した。



「!」

しばらくすると、そばに置いてあったケータイから設定したばかりの一番気に入っている曲の着メロが流れた。

ベッドに寝転がっていた俺はゆっくりと身体を起こし、静かになったケータイを手に取った。

(先輩から…やんな?)

新着メールを開こうとケータイを操作する指が少し震える。

俺は一度深呼吸をしてから、メールの本文を読み始めた。



 Date 21:57
 From みょうじ なまえ
 Sub. メールありがとう
 ――――――――――――――――――――――
 こちらこそ、よろしくお願いします。
 メールはもちろんですが、またお話しできたら
 いいなと思っています。
 学校で見かけたら気軽に声をかけてくださいね。
 それでは、おやすみなさい。



「みょうじ先輩…」

先輩からの嬉しい言葉に、胸の中が温かくなるのを感じる。

「……せやけど、なんで敬語?」



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