財前視点 学校帰りに目的のCDを買って店を出たところだった。 「財前くん?」 その澄んだ声に、心臓がドキリと跳ねた。 一呼吸おいてから振り返れば、やはりそこには先輩が立っていた。 「良かった、やっぱり財前くんだった。」 先輩は白いワンピースの裾を揺らしながら、軽い足音で近付いてくる。 上品なワンピースを着た先輩の姿に、心拍数が一気に上がる。 (なんなんや、この人は。可愛過ぎるやろ。) 胸が苦しくなって、俺は目の前に立った先輩の足元に視線を落とした。 目に入ってきたベージュのレースアップブーツのつま先は真新しくて傷も汚れもない。 「今日は部活ないの?」 「…はい、今日は自由参加なんで。」 やっぱり目を合わさないのは失礼だと思って視線を上げるが、目は合わせられなくて、先輩の肩のあたりを見る。 「そうなんだ。」 「先輩はどうしはったんですか?」 「私はね、お菓子作りの材料を買いに来たの。」 そう言った先輩の手元を見れば、ピンク地に白いドット柄のエコバッグを持っていた。 すでに買い物は済ませた後のようで、中にはお菓子の材料や料理道具が入っている。 「甘いもん作るの好きなんですね?」 「うん。それでね、今回は和菓子に挑戦してみようと思ってるの。…財前くんは和菓子って好きだったりする?」 「甘いもんはだいたい好きです。善哉が好物やし。」 「そっか。じゃあ、何か作ったら持っていってもいいかな?」 「…ええんですか?」 嬉しい提案に声が上擦りそうになるを堪えて聞き返す。 「うん。どうせなら、好きな人に食べてもらえると嬉しいから。」 「っ、……す、好きて…」 先輩はいきなりなにを言い出すのかと、激しく動揺する。 「財前くん、和菓子が好きなんだよね? 食べたら感想聞かせてね。」 全く他意のない、柔らかな微笑みが向けられる。 「あ、え……はい…」 恥ずかし過ぎる勘違いをしてしまい、【穴があったら入りたい】という言葉を俺は初めて実感した。 「あれ…どうしたの? 顔が紅いよ?」 「いや、その……日差しが強いから暑うなってきて…」 しどろもどろになりながら言い繕うが、いまいちごまかせていない気がする。 「大丈夫? 今日はよく晴れてるし、学ランって黒いからちょっと暑そうだよね。」 先輩はおかしいはずの俺の態度には触れず、青く晴れている空を見上げた。 ふんわりとした栗色の髪が急に吹いた風に遊ばれ、ほんのりと甘い上品な香りが俺の鼻先を掠めた。 すでに煩い心臓がさらに激しい鼓動を打つ。 耳元で自分の心臓の音が響いて、周囲の音が消えていく。 この人のそばにいたら、心臓が壊れてしまいそうだ。 大げさなんかじゃなく、本当に。 だけど俺は、もっと先輩に近付きたい。 「あ、あの、みょうじ先輩……」 ← |