ひとめぼれ | ナノ


財前視点


どうやら彼女とは縁があるらしい。

騒がしい廊下の向こう、俺の視線の先には彼女がいる。

ただ、余計な人物も一緒にいるのが気に食わない。

(っちゅーか、3年やったんか?)

彼女は俺の部活の先輩である謙也さんと楽しそうに話をしている。

それが面白くなくて、俺は止めていた足を進めた。

二人に近付いて行くと、先に謙也さんが俺に気付いた。

「財前やん。」

「あ、三日ぶりだね。」

謙也さんにつられて俺を見た彼女は目が合うと、やっぱりふわりと柔らかい笑みを浮かべた。

途端に鼓動が速くなってしまうが、謙也さんがいる手前、表情は変えないように努める。

「…ども。」

口元を引き締めて、一言だけ返すのが精一杯だ。

「自分ら、知り合いなん?」

「うん、ちょっとね。」

「へぇ、いつ知り合いに…」

「おーい、謙也! サッカーのメンツ足りんから入らへん?」

急に割り込んできたのは、謙也さんのクラスメイトたちだろうか。

「おん、エエで。ほな、そーゆーことやから、俺は行くわ。」

「うん、いってらっしゃい。」

謙也さんたちはぞろぞろと歩いていなくなり、俺と彼女だけがその場に残された。

「先輩、やったんスね。」

「えっ…同じ3年生じゃないの?」

彼女は驚いたらしく、黒目がちな目を瞬かせた。

「俺、2年の財前光いいます。」

「一つ下なんだ。落ち着いてるから同じ学年だと思ってたよ。…あ、私も自己紹介しないとね。」

そう言うと、彼女は俺に向き直った。

「3年のみょうじなまえです。改めてよろしくね、財前くん。」

彼女の澄んだ声に初めて名前を呼ばれ、アホみたいに気持ちが舞い上がってしまう。

「……っす。」

差し出された白くしなやかな手を緊張しながら握る。

触れ合った彼女の手は柔らかくて温かくて、心臓が破裂しそうだ。

顔に熱が溜まるのを自覚しながら、俺は彼女の手をそっと離した。

「財前くんは忍足くんと知り合いなんだね?」

「知り合いっちゅーか、部活が一緒なんで。」

話しながら、手に残っている温まりと柔らかな感触に落ち着かない気持ちになる。

「そっか。財前くんもテニス部なんだ。」

「そうです。…先輩はなんか部活に入りはったんですか?」

「ううん、まだだよ。今から部活に入っても中途半端だから迷ってて。」

「…そう、ですよね。」

平静を装って会話を続けるが、さっきから煩い心臓は静まりそうにない。

(どんだけやねん、俺。)

心臓がいくつあっても足りないと思いつつ、少しでも話していたくて、俺は必死に話題を探した。



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