※この話は、拍手のお礼文だったものを加筆・修正しています。 財前視点 ――春休みが終わり、俺は2年に進級した。 欠伸を噛み殺しながら階段を上り、新しい教室がある階へと向かう。 クラス分けの一覧表が張り出されている廊下には、すでに多くの生徒が集まっていた。 同じクラスになれたとかクラスが離れたとか、どいつもこいつも騒がしくて敵わない。 俺は自分のクラスを確認するのを後回しにし、始業式が始まるまで人がいないだろう特別教室棟にでも避難しようと踵を返した。 先程とは打って変わって静かな廊下に、自分の足音だけが響く。 始業式に出なくても困らないから、このままサボってしまおうかと考える。 (だいたい、校長の話おもろないねん。あんなんで笑うとる奴らの気が知れへんわ。) 一年経ってもこの学校には馴染めないと、少し憂鬱な気持ちになる。 俺は気分を上向かせようと、ほとんど中身の入っていない鞄からiPodを取り出した。 イヤホンを耳に付けて再生ボタンを押せば、最近気に入っているロックバンドの曲が流れ始める。 「………」 なんとなく立ち止まり、中庭に目をやれば、一本だけある桜の木が満開を迎えていた。 優しく淡い色が澄んだ青空に映える。 舞い落ちる薄紅色の花びらに気を取られていると、視界の端で何かが動いた。 そこで初めて、俺は桜の木のそばに誰かが立っていることに気が付いた。 (転入生か?) 見慣れない制服に身を包み、咲き誇る桜の花を見上げていた彼女は、不意にこちらを向いた。 俺と目が合った彼女は少し驚いた様子で数回瞬きをした。 そして…… 微笑んだ。 とても柔らかく。 その瞬間、耳元でしていた音が消えた。 ひらりと散った花びらが彼女の柔らかそうな髪を飾る。 どこか現実感の欠けた邂逅に、彼女は春そのもののようだと、俺は浮かされた頭で思った。 ← |