ひとめぼれ | ナノ


財前視点


階段を二段飛ばしで駆け降り、廊下を走り抜け、俺は上履きのまま中庭に出た。

上がった息を整えながら、新緑の葉を青々と茂らせた桜の木の下に立つなまえさんのほうへと歩いていく。

だが、なまえさんに近付くにつれて、走ってきたせいで速くなっている心拍数がさらに速くなる。

「午前中はすんませんでした。」

なまえさんの真正面に立って足を止め、頭を下げる。

「ううん、気にしてないよ。」

淡くだけれどなまえさんが笑みを見せてくれたに安堵する。

「あの、それで……俺、なまえさんに大事な話があるんです。」

「…うん。」

鼓動がこれ以上ないくらいに激しく脈打って、胸が苦しくて仕方ない。

こんなに緊張しているのは生まれて初めてかもしれないと、余裕のない頭の片隅で他人事のように思う。

俺の緊張が伝わっているのか、なまえさんは少し硬い表情で俺を見ている。

顔が熱くなっているのを自覚しながら、小さく息を吸って吐き出す。

「なまえさん。」

「はい。」

「俺は、なまえさんが好きです。せやから…俺と付き合うてください。お願いします。」

格好をつける余裕なんてなくて、ただありのままの気持ちを言葉にした。

「…はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」

頬を桜色に染めて、はにかむよう微笑んだなまえさん。

一瞬、辺りに薄紅色の花びらが舞うのが見えた気がした。

でも、それはただの幻で。

目の前にいるのは、綺麗な笑みを浮かべるなまえさんだけだ。

「私も光くんのことが好きです。」

その唇から紡がれた、ずっと望んでいた言葉。

「ほんまに、ですか?」

「うん、本当だよ。本当に、光くんが好き。」

繰り返される言葉が甘さを伴って耳に届く。

「なまえさん……少しだけ、抱き締めてもええですか?」

なまえさんはびっくりしたようだったが、恥ずかしそうしながら小さく頷いてくれた。

俺は空いていた距離をなくして、なまえさんをそっと腕の中に抱き寄せた。

だけど、身体に伝わる温もりを感じたら、もうだめだった。

感情が抑えきれない。

「好きです、なまえさん…っ 初めて会うた時から好きやったんです…っ」

ほんのりと甘い香りがする髪に顔を埋めて細い身体を強く抱き締める。

「光くん……私を好きになってくれて、ありがとう。」

なまえさんの手が俺の背中に回って、優しく抱き締められる。

「そんなん、俺のほうこそ…」

どれだけ、こんな日が来るのを願っただろうか。

「夢、見とるみたいや。」

情けないことに、声が震えて掠れた。

「夢じゃないよ。」

温かい手に両頬を包まれて、下から顔を覗き込まれる。

「好きだよ、光くん。」

春を思わせるなまえさんの笑顔に、どうしようもなく胸がいっぱいになる。

なまえさんが俺に笑いかけてくれるだけで、泣きたくなるほど幸せだ。

「っ、……好きや。ほんまに好きや、なまえさん…っ」

甘く優しげに微笑むなまえさんを、俺は再びきつく抱き締めた。



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