財前視点 屋上での告白未遂から数日、俺はどうにも気まずくて、なまえさんに会わないようにしていた。 メールも電話も一切していない。 俺が告白しようとしていたことになまえさんが気付いていたのかは分からない。 分からないが、もし気付いていたのなら、なまえさんの反応を見るのが怖かった。 避けられたり無かったことにされたりしたら…と考えるだけで、絶望的な気持ちになる。 (なまえさんは、そんな人やないよな。) こんなふうに悪く考えてしまうのは、俺が不安でたまらないからだ。 (ほんま情けないわ、俺。) どこぞのスピード馬鹿な先輩のことを言えないなと、俺はひとり自嘲した。 ● ● ● グランドでの体育の授業を終えて校内に戻り、更衣室に向かって廊下を歩いている時だった。 「光くん?」 耳に飛び込んできた声に身体が固まる。 思わず立ち止まったものの、後ろを振り返れない。 「あのね、光くん。その……この間のこと、なんだけどね…」 「すんません。俺、急いどるんで。」 「あ…ごめんね。着替えなきゃいけないのに呼び止めちゃって。」 「いえ。」 俺はなまえさんにずっと背中を向けたまま、その場から立ち去った。 なまえさんはどんな顔をしていたのだろうか。 あんな…あからさまに避けるような行動をしてしまうなんて。 絶対に気を悪くしたに違いない。 いや、もしかしたら、傷付けてしまったかもしれない。 (謝らな。) 俺はガタンと音を立てて勢いよくイスから立ち上がった。 早く、謝らなくては。 そして、今度こそ、なまえさんに―― 顔を上げると、教室に残っていたクラスメイトたちの視線が自分に集まっていることに気付いた。 「なに見とんねん。」 俺は無遠慮に視線を向けてくる奴らを鋭く睨み、何も持たずに自分の教室を後にした。 「……おらんよな、やっぱり。」 3年の教室がある3階まで来たが、2組の教室になまえさんはいなかった。 放課後になってから時間が経っている。 もう帰ってしまったのだろうと、来たばかりの廊下をのろのろと戻る。 少し足を進めたところで、ふと窓の下に目をやると、すっかり葉だけになった桜の木が目に入った。 中庭にある桜の木のそばに誰か立っている。 それが誰なのか分かった途端、俺は廊下の窓を勢いよく開けて身を乗り出した。 「なまえさん!」 滅多に出さない大声で呼ぶと、なまえさんはきょろきょろと周りを見渡し、俺を見つけてくれた。 「そこで待っといてください!」 それだけ言って、俺は廊下を走り出した。 ← |