ひとめぼれ | ナノ


ヒロイン視点


私は弾んだ気持ちで屋上に向かっていた。

重い扉を押し開け、定位置になっている場所を見るけれど、まだ光くんは来ていない。

私は持ってきたレジャーシートを敷き、お弁当箱と重箱の入った風呂敷包みを置いて座った。

明るい陽射しが降り注ぎ、爽やかな初夏の風が頬を撫でる。

(気持ちいいな。)

だいぶ見慣れてきた遠くの街並みを眺めながら、風に揺られる髪を耳にかける。

ギィーッと扉の開く音がして、そちらに目を向けたけれど、屋上にやってきたのは知らない生徒だった。

私は小さくため息をついてから、晴れた空を見上げた。

(早く来ないかな、光くん。)

人を待つのは嫌いじゃないはずなのに、待ちきれない気持ちになってしまう。

メールや電話も嬉しいけれど、直に会って顔を見て声が聞きたいと思う。

(好き、なんだよね。)

きっと私は、初めて出会った時から光くんに惹かれていたのだろう。

それは自分の想いを自覚した今だから分かることだ。

思い返せば、私は最初から光くんのことを気にしていた。

だけど、芽生えたばかりの感情は淡くて、すぐには気付けなかった。

自分の気持ちなのに。

きっかけになったは、あのデートだ。

少し照れたけれど手を繋いだことが嬉しくて、初めて見た光くんの柔らかい表情に胸が高鳴った。

それから急に、私は光くんを異性として意識するようになっていた。

(でも、光くんは?)

うぬぼれかもしれないけれど、同じように想われているんじゃないかと思ったりもした。

だけど、あれから光くんは何も言ってくれなくて、私は光くんの気持ちを量りかねていた。

少しずつだけどお互いの距離は縮んできていて、光くんに好意を持たれているのは確かだと思う。

だけど、それは友人としてのものかもしれないし、私を先輩として慕ってくれているだけかもしれない。

考えているだけではどうしようもないと分かっている。

だけど…

「すんません、なまえさん。待たせてしもうて…」

「っ……光くん。ほとんど待ってないから大丈夫だよ。」

考え込んでいた私は急に声をかけられて、びくっと肩を跳ねさせた。

「そうかもしれんですけど、俺がなまえさんを待たせたないんで。」

「光くんは真面目だね。」

「別に…そうゆう訳やないですけど……」

光くんはふいっと視線を逸らすと、私の向かいにあぐらをかいて座った。

ピアスのついた耳がほんのり紅くなっていて、私は声には出さずに笑った。



「どら焼きも家で作れるもんなんですね。」

蓋を開けたお重箱の中身を覗き込んだ光くんは感心したみたいに言いながら、どら焼きを一つ手に取った。

我ながら綺麗に焼けた皮にはたっぷりの粒餡だけでなくおもちも一緒に挟んである。

「特別な材料は使わないからね。一応、ホットケーキミックスでも皮が作れるんだよ。」

「へぇ、そうなんですか。……あ、モチ入っとる。」

「私はもち入りが好きなんだけど、光くんは嫌いじゃなかった?」

「いえ、ぜんぜん。美味いっす。」

「ふふ…良かった。」

今回も喜んでもらえたみたいで嬉しいなと思いながら、私も手に取ったどら焼きを口に運ぶ。

光くんはもう二つ目のどら焼きに口をつけていて、相変わらずよく食べるなと、私は小さく笑みをこぼした。

こうやって一緒に過ごせるだけで、今は充分だ。



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