ヒロイン視点 昨日の夜にすごく悩んで選んだのは、淡いピンク色をしたAラインのワンピースだ。 膝丈の裾がふんわりとフリルになっているのが可愛くて気に入っている。 そして、かかとにリボンのついたオフホワイトのパンプスを履いた足元は軽やかだ。 晴れて良かったなと、青空を見上げて気持ちが弾む。 (すごく、浮かれているかも。) 家を出る時にお母さんに『そんなにおめかししちゃって、デートなの?』と言われたのを思い出す。 立ち止まって、歩道に面したお店のショーウィンドウのガラスの映る自分の姿を見る。 サイドの髪を編み込んで、華奢なゴールドのネックレスをつけて、爪に淡い色のマニキュアを塗っているけど、休日にお出かけするのだから、これくらいは普通だと思う。 (それに、今日はデートじゃないもの。) 仲の良い後輩と遊ぶ約束をしているだけ。 待ち合わせ場所が近くなり、腕時計を確認すると、まだ約束の時間の15分前だった。 時間に余裕をもって家を出てきたけれど、少し早過ぎたみたいだ。 遅れるよりはいいかと思い、のんびり歩いていると、光くんが立っているのが遠くに見えた。 駅の近くだということもあり、人がたくさんいるけれど、光くんの姿だけが私の目を引く。 そういえば、最初に出会った時も強い印象を受けたなと、桜の花片が舞う中で出会った日のことを思い出す。 新しい学校の中を見て回っていた私は、中庭で満開に咲いている桜の木に見入っていた。 そろそろ教室に戻ろうと踵を返した時に、自分と同じように桜を見ていたらしい光くんと目が合った。 その切れ長の黒い瞳が印象的で、あの日出会った男の子の存在は私の中に強く残った。 気付けば、光くんの元に向かう私はいつの間にか足早になっていた。 「こんにちは、光くん。早いんだね。」 片手をポケットに入れて携帯をいじっている光くんに声をかけると、弾かれたように顔を上げた。 「こ、こんちは。なまえさんも早いですね。」 「うん、少し早めに家を出てきたの。光くんはいつからいつからいたの? 待たせちゃったかな?」 「いえっ、ついさっき来たばっかなんで、ぜんぜん待っとりません。」 「それなら良かった。」 甘味処に行く前に少し街をぶらぶらしようということになった。 いろんなお店が立ち並ぶ大通りは人が多くて、私はさっきから人にぶつかりそうなっている。 「あっ、ごめんなさい!」 気を付けていたものの、前から歩いてきた人と腕がぶつかってしまった。 「なまえさん、大丈夫ですか?」 「うん、平気だよ。それにしても、休日の午後だから人が多いね。」 「そうですね。……あの…はぐれんように、手でも繋いどきます?」 思わぬ言葉に、私は控えめに手を差し出した光くんの顔を見て目を瞬かせた。 「……いや、すんません。なんや変なこと言うてもうて…」 私が黙ってしまっていると、光くんは真っ赤になった顔を私から背けた。 「そんなことないよ。…手、繋いでもらっていい?」 俯いてしまった光くんの手に触れると、弱々しい力で握り返された。 繋いだ光くんの手が熱い、ような気がする。 「ちょっと照れるね。」 「…そう、ですね。」 まだ赤い顔をしている光くんだけど、少しだけ繋いでいる手に力が込められたのを感じた。 「なんだか……デートみたい、だね。」 「っ、……俺は、デートやと思っとりますけど。」 「…そっか。」 じわりと、自分も頬が少し熱くなってきた。 私はくすぐったいような気持ちと一緒に、光くんの手をそっと握り返した。 ← |