恋の行方

 
 


子猫に構う

仁王視点


クラスの違う彼女と学校で会うのは昼休みであることが多かった。

だが、約束なんてものはない。

気が向いた時に、彼女がよく居る場所に行くだけ。

そこに彼女が居なければ、あるいは来なければ、それまでだ。

わざわざ探し回るような事はしない。

これまではそうだった。

今は昼休みになれば彼女の姿を探している。

しかし、俺に懐いたと言った彼女から俺に会いに来た事は、一度もない。

その事実に、不満というか少し不安になる。

ぐだぐだ考えていると、裏庭にある大きな木の木陰に見慣れた姿を見つけた。

彼女はいつものように本―今日は文庫本のようだ―を読んでいる。

気配を隠す事もせずに近付いていくと、足音に気付いたらしい彼がはゆっくりと本から顔を上げた。

俺の姿を見た彼女が瞳を和ませて柔らかな笑みを浮かべる。

(そういうのは狡いじゃろ。)

柄にも無く照れてしまって、俺は火照りそうになる顔を背けた。



大人しくしているならいいとの彼女の言葉に遠慮なく甘えることにして、柔らかな太腿に頭を乗せた。

だが、彼女の顔は開いた本に隠されている。

以前もこんな事があったなと思い返す。

俺は仰向けを止め、細い腰に両腕を回して彼女のお腹に顔を埋めた。

「仁王くん、それは止めてくれないかしら。」

「ちゃんと大人しくしとるじゃろ。」

降ってきた彼女の抗議を無視して、ぐりぐりとお腹に額を押し付ける。

「兎に角、止めてちょうだい…っ」

焦ったような声で言って、彼女が片手で俺の肩を押してくる。

「別にええじゃろ、この位。誰かさんが本を読んでばっかりなのがいけん。」

「…困った子猫さんね。」

彼女は諦めたのか、小さく溜息を零すと、肩から離した手で俺の髪を撫でた。

「困ったもんなのはお前さんの方じゃろ。」

「そうかしら?」

今度は俺が溜息を吐き、ゆっくりと起き上がった。

俺に言わせれば、彼女の方がよっぽど猫みたいだと思う。

あまり構い過ぎると逃げる所とか。

本人曰く、俺に懐いているらしいが、俺としてはまだまだ足りない。

(つまり、俺に慣れさせればいい訳じゃな。)

その為には、もっと彼女と触れ合う必要があるだろう。

彼女の頬を両手で包み込むと、不思議そうに目を瞬かせた。

「なあに?」

「好いとうよ、なまえ。」

甘く囁いて、俺は彼女の唇を舐めてやった。

「っ……」

見事に固まった彼女に薄く笑ってみせて、俺は彼女の温かい唇に自分の唇を重ねた。


(2013.09.01)

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