恋の行方

 
 


子猫はどっち?

ヒロイン視点


穏やかな風が吹き、葉擦れの音がして木漏れ日が揺れた。

彼は木の幹に背中を凭せ掛けて足を投げ出している。

私はそんな彼の太腿に頭を乗せて芝生に寝転がっている。

自分を見下ろしている彼の頬に手を伸ばして触れようとすると、その手を取られた。

「どうしたんじゃ?」

掴んだ私の手を自分の手と繋ぎ直した彼は、余っている方の手で髪を梳くように私の頭を撫でる。

柔らかく撫でられるが心地好くて、私は猫のように目を細めた。

「あなたは…どうして私の所に来るの?」

はぐらかされるのだろうと思いながら、問い掛ける。

「お前さんの傍は居心地が良いからのぅ。」

予想は裏切られて、彼の猫のようにつり上がっている目尻が優しく下がる。

その金色の瞳は私を映している。

「ねぇ、仁王くん。」

私は手を繋いだまま起き上がり、彼の方に身体を向けて座り直した。

「なん?」

「私が懐いたら…ちゃんと可愛がってくれるかしら?」

彼が目を瞬いて酷く無防備な顔をしたから、私は少しだけ笑えた。

「いつの間にか、私もあなたに懐いてしまったんだわ。」

「…本当に、そうなんか?」

探るような目を向ける彼を真っ直ぐに見つめ返す。

「ええ、本当よ。」

微笑んで肯定すると、彼に引き寄せられて腕の中へと閉じ込められた。

「私の事、ずっと可愛がってちょうだいね。」

慣れないことに躊躇いながら彼の背中に両手を回す。

彼に胸に頬を押し当てたまま、私は目蓋を閉じた。

「安心しんしゃい。ちゃんと可愛がっちゃる。」

「うん。」

「一生、俺が飼ってやるけぇ。」

「うん…?」

「漸く捕まえたぜよ、子猫ちゃん。」

「……仁王、くん?」

やけに愉しそうな声に、閉じていた目を開けて彼の胸から顔を上げる。

「待ってくれないかしら、色々と。」

ゆっくりと顔を近付けてくる彼の肩を両手で押し返す。

だけど、上から重ねられた彼の手に、他愛無い抵抗をする手を握られてしまう。

「もう待ってやれんよ。」

「引っ掻くわよ?」

「子猫に爪を立てられる位、何でもなか。」

「に、におっ、くん…っ」

「もう黙りんしゃい、なまえ。」

「っ……」

彼の息が唇にかかり、私はきつく目を瞑った。

強引さとは裏腹に優しく重ねられた彼の唇は温かかった。


(2013.01.05)

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