恋の行方

 
 


子猫が拗ねる

仁王視点


裏庭にある大きな木の陰で、彼女はいつも読んでいる類のとっつきにくそうな本を読んでいる。

なんでも彼女の好きな作家の新刊らしい。

横から彼女の手元を覗き込んで何行か読んでみたが、すぐに挫折した。

「それ、面白いん?」

「つまらないのなら読まないわ。」

「…まあ、そうじゃろうな。」

本に集中したいらしく、今日は随分と素っ気無い彼女に、俺は小さく溜息を吐いた。

彼女はそんな俺を全く気にも留めていないようで、読み終わったページを捲っていく。

全く相手にされていないのが面白くなくて、俺は無言でハードカバーの本を取り上げた。

「仁王くん?」

漸く俺を見た彼女は僅かだが不満そうな表情をしていた。

彼女にしては珍しい表情だ。

俺は彼女の視線を受け止めながら、閉じた本を芝生の上に置く。

「栞を挟んでいないのに。」

「少しは俺に気を向けんしゃい。」

一度は本に向けた視線を俺に戻した彼女は小さく首を傾げた。

「もしかして……拗ねているのかしら?」

「…別に。」

構われたがりの子供みたいな行動を取ってしまった事を、少し後悔する。

俺は、彼女の酷く透明な瞳から逃げるように顔を背けた。

「何でも無いのなら、読書の邪魔をしないでちょうだいね。」

彼女は淡々とした口調で言うと、再び本を手に取った。

俺はその場に座り直して、彼女の隣で大人しくしていることにした。

特にやる事もなく、暫くボーッとしていたが……暇だ。

(つまらんのぅ。)

俺は本にばかり夢中になっている彼女に背を向けて芝生に寝転がった。

昼飯を食べた後なのと昨日は遅く寝たこともあり、眠気が襲ってくる。

欠伸を噛み殺し、俺は目を閉じた。

少しだけ肌寒さを感じつつ微睡ろんでいると、肩に何かが掛けられた。

薄らと目を開けて確認すると、それは彼女の膝にあったブランケットだった。

ベージュ地に白いドットのブランケットには彼女の体温が残っている。

そして、ほんのりと彼女の優しい香りが鼻先に届いた。

誰に見られるでもないが、緩みかけた口許を片手で隠し、俺は再び目を閉じた。

なんとなくだが、彼女が少し笑ったような気がした。


(2012.09.05)

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