恋の行方

 
 


子猫を拾う

ヒロイン視点


「こんな所で何をしているの?」

路地裏で蹲っている彼を見つけ、私は自分が差している傘を傾けた。

緩慢に顔を上げた彼はすっかり雨に濡れてしまっている。

「お家はどこなの? 送って行くわ。」

「分からん。」

「…迷子なの?」

まさかとは思うけれど、普段来ない場所に来て迷ってしまったのだろうか。

彼の頬から顎へ雨粒が伝い、濡れた地面に滴り落ちている。

身体が冷えてしまっているのだろう、普段から白い肌は青白く見える。

「捨てられたんよ。」

「全く…巫山戯ている場合じゃないでしょう。このままでは風邪を引いてしまうわ。」

一体いつからここに居たのか、私を見上げる彼の顔色を見る限り、短い時間でない事だけは確かだ。

「拾ってくれんの? 行く所がないんよ、俺。」

口の端を僅かに上げた彼だけれど、それはいつもの皮肉っぽい笑みとは違って見える気がした。

「分かったわ。拾ってあげるから、まずは立ってちょうだい。」



キッチンに立っていると、お風呂から上がってきた彼がリビングに入ってきた。

「ちゃんと温まったの?」

「…ん。」

返事と言えないような短い返事をした彼はソファーに腰を下ろす。

「ホットミルクで良かったかしら?」

作ったばかりの蜂蜜入りのホットミルクを彼の前のテーブルの上に置く。

「ありがとさん。…しかし、本当に猫扱いなんじゃな。」

湯気を立てているマグカップを見て、血色の良くなった彼は小さく笑った。

「そういうつもりはなかったのだけれど…生姜湯でも作りましょうか?」

牛乳のほうが無難だと思ったけれど、身体を温めるなら生姜湯のほうがいいだろう。

「いや、これでいいナリ。」

マグカップを持った彼は、数回息を吹きかけてからホットミルクに口をつけた。

猫舌なのか、彼は一口だけ飲んだ後、マグカップをテーブルに戻した。

「制服が乾いたら、ちゃんとお家に帰るのよ?」

さすがに泊まっていくつもりは無いだろうと思いつつ、線引きをする。

彼は何も答えず、立っている私の手首を掴んだ。

そのまま引っぱられて、私は彼の隣に座らされた。

「俺のこと、飼ってくれんの?」

前屈みになり、斜め下から私の顔を覗き込んでくる彼は、巫山戯ているのかいないのか。

「ちゃんと帰らないと駄目よ。」

「…分かっとうよ。」

諦めたような溜息をついた彼が、私の肩に頭を預けてきた。

完全には乾き切っていない銀色の髪はひんやりとしていて、私の首筋の体温を徐々に奪ってゆく。

「ちゃんと家には帰るけぇ、暫くこのままでおって。」

「…仕様がない子猫さんね。」

小さく息を吐き、身体の力を抜く。

一応は拾った責任もあるから、もう少しだけ彼に付き合うことにする。

私は窓の外から聞こえてくる静かな雨音に耳を傾けながら、そっと目を閉じた。


(2012.04.15)

‐04‐

 

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