恋の行方

 
 


子猫と過ごす

ヒロイン視点


(またなのね。)

中庭の木陰になっているベンチに来てみたら、彼が横になって寝ていた。

ベンチの上で少し窮屈そうに身体を丸めて寝ている彼は、やはり猫のようだと思う。

彼の頭のほうに一人くらい座れるスペースはあるけれど、さすがにそこに座る訳にはいかないだろう。

「座らんのか?」

他の場所に行こうと考えていると、彼の閉じられていた目蓋が開き、金色の瞳が私を映した。

「ごめんなさい。起こしてしまったわね。」

「いや、起きてたぜよ。」

「そうなのね。でも、邪魔になってしまうから失礼するわ。」

「構わんから座りんしゃい。」

踵を返そうとする私を引き留める彼。

その言葉を無碍に断るのは悪い気がするし、やっぱり今日はここで本を読みたい気分でもある。

「それじゃあ、お言葉に甘えさせて頂くことにするわ。」

私はベンチの空いているスペースに腰を下ろすことにした。



吹く風に木の枝が揺られ、葉の隙間から射し込む光が形を変える。

「なあに? 悪戯はだめよ。」

読んでいた本を膝の上に伏せて置き、制服のスカートの裾を引っ張っている彼の手をやんわりと掴んで離させる。

骨張った手は案外と素直だった。

「遊んで欲しいのかしら、子猫さん?」

「…別に。」

少しだけ、からかうように言うと、彼はすっと目を逸らした。

「言うておくが、俺は愛玩用じゃなかよ。」

どこか拗ねたような表情で言う彼。

「分かっているわ。そもそも、私はあなたを可愛いと思った事は無いもの。」

本物の猫は可愛いと思うけれど、猫みたいな彼が可愛いかは別の話なのだから。

「お前さんは難解じゃ。変わっとる。」

何か不満でもあるのか、彼は眉を寄せて溜息混じりに零すと、目蓋を閉じた。

私は痛んだ銀髪に軽く指を通してから、膝に伏せた本を再び手に取った。


(2012.01.03)

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