子猫との出会い ヒロイン視点 裏庭にある大きな木の下は私のお気に入りの場所の一つだ。 今日はそこで本を読もうと思っていたら、既に先客がいた。 木の幹を背にして座っている彼は目を閉じていて、どうやら完全に眠っているようだ。 少し痛んだような銀色の髪が緩く吹く風に揺られている。 長めの後ろ髪は無造作に結ばれていて、どこか動物の尻尾を思わせた。 昼寝の邪魔をしてはいけないけれど、煩くしないのなら大丈夫かと思い、私は彼の反対側にそっと腰を下ろした。 陽射しは木の枝葉に遮られ、穏やかに吹く風が頬を優しく撫でる。 区切りのいい所まで読み、腕時計を確認した私は布製の栞を挟んで本を閉じた。 ちょうどその時、小さく声がしたと思うと、身動ぎする音が聞こえた。 座ったまま反対側を覗き込むと、金色の瞳と目が合った。 「おはよう、かしら?」 取り敢えず、挨拶をしてみたけれど、 「お前さんは…いつからここに居たんじゃ?」 彼は明らかに警戒した様子で私を見た。 その様子がまるで毛を逆立てている猫のようで、私は少し笑ってしまった。 「そんなに威嚇しなくても虐めたりしないわよ…子猫さん。」 「……は?」 口許に笑みを浮かべたままの私の言葉に、彼は細めていた目を見開いて瞬きをした。 私を睨んでいたのから一変して、酷く無防備な表情だ。 そんな彼を見ていると、休み時間の終わりが近いことを知らせる予鈴が鳴った。 「もう時間ね。」 本を片手で抱えて立ち上がり、制服のスカートを軽く払う。 「質問に答えんしゃい。」 どうしても何も、理由はない。 彼が居ようが居まいが、私の行動は変わらなかっただろうから。 「急がないと午後の授業に遅れてしまうわ。…さようなら、子猫さん。」 まだ自分を見ている彼に背を向け、校舎へと歩き出した。 (2011.09.25) |