恋の行方

 
 


子猫を愛でる

仁王視点


今日は珍しく部活が休みで、俺は学校帰りの彼女を家に連れて帰った。

そして現在、彼女を独り占め出来る貴重な時間を過ごしている。

「好いとうよ、なまえ。」

膝の上に乗せた彼女の耳元で囁いて、細い身体を後ろから強く抱き締める。

「本当に好きなんよ。」

良い香りのする髪に顔を埋めると、彼女の細い指が俺の髪を撫でた。

「少し離してくれないかしら。」

「嫌じゃ。」

ますます腕の力を強めれば、彼女が小さく息を吐いた。

「少しだけでいいのよ。」

仕方なしに腕を解いてやると、彼女は俺と向かい合う形で膝の上で横座りになった。

温かい手が俺の両頬を包む。

「好きよ、仁王くん。」

酷く優しげに微笑む彼女の口から紡がれた言葉に、俺は表情を繕う事も出来ずに目を見開いた。

今まで彼女の好意は態度から感じてはいたが、言葉にされたのは初めてだ。

柔らかく笑みを深める彼女に心臓が大きく音を立てる。

「あなたって、可愛い人ね。」

「…俺は可愛くないって言ってたじゃろ。」

触れられている頬が熱いのを自覚するが、甘く微笑む彼女から目を逸らす事が出来ない。

「それとは意味合いが違うわ。あなたは、私の愛す可き人だと言っているの。」

彼女の綺麗に弧を描いた唇が俺の唇に重ねられる。

それから、頬や鼻先、顎へと戯れるような口付けが繰り返される。

「全く……お前さんには敵わんな。」

なんだか負けたような気になった俺は溜息を零し、甘えるように彼女の薄い肩に額を乗せた。

「結局、飼われとるのは俺のほうみたいやの。」

顔を上げないまま、彼女の艶やかな髪を指に絡ませて弄ぶ。

「そうかしら?」

あやすように俺の髪を撫でる彼女の手の感触が気持ち良くて、目を閉じる。

「これだけ俺を靡かしちょる癖に。」

「同じよ。私の心もあなたに靡いているわ。」

「でも、今まで一度も言葉にしてくれなかったじゃろ。」

肩に埋めていた顔を上げて、少し恨めしそうに彼女を見る。

「あなたが好きよ。」

「もっと言ってくれんか。」

「仁王くんが好き。」

「名前で呼んで欲しいんじゃけど。」

「雅治の事が好きよ、とてもね。」

「っ、……なまえっ」

感情のままに俺は、華奢な背中を掻き抱いて、微笑んだままの唇に噛み付くように口付けた。


(2014.11.22)

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