恋の行方

 
 


子猫と眠る

ヒロイン視点


家に来るよう彼に誘われ、一緒に休日を過ごしていた。

彼のお薦めだという映画のDVDを見て、彼の趣味だというダーツを教えてもらったりもした。

そして今は、ベッドで横になって昼寝をしている。

但し、眠っているのは彼だけで、私は彼に背中から抱き締められた状態で本を読んでいた。

読んでいるのは、彼の部屋の本棚から拝借した一冊だ。

一区切りついたところで本の頁から本棚へと視線を移す。

改めて見ても、並んでいる本には全く統一性が無い。

興味の幅が極端に広いのか、それとも特に好みなど無いのか、よく分からない。

「………、…なまえ…」

吐息の様な声が私の耳を擽った。

後ろの気配を窺うけれど、彼はまだ眠っているようだ。

聞いたところに拠ると、彼が所属しているテニス部の練習は相当に過酷らしい。

彼曰く「適度に休憩を取っている」らしいが、それでも疲れが溜まっているのだろう。

それならば、貴重な休日は大人しく休んでいた方が良いのではないか。

私には何も出来る事が無いのだから。

「……仁王くん?」

不意に、私の腰に絡んでいる彼の腕の力が少し強くなった気がした。

片手に本を持ったまま、空いている方の手で彼のあまり日に焼けていない腕にそっと触れる。

ずっとつけたままの冷房の所為だろう、半袖から伸びる筋張った腕はひんやりとしている。

何か掛けるものは無いだろうか。

身体を動かそうとした私は、眠っているのにしっかりと腰に巻きついている彼の腕に僅かに苦笑した。

そんなに一生懸命にならなくても、私は逃げたりしないというのに。

私は本をベッドの上に伏せ、どうにか体勢を変えて彼と向き合う形になった。

切れ長の目の所為か普段は少しきつい印象の彼だけれど、見慣れた寝顔は少しだけ幼く見える。

無駄な肉のついていない頬に触れてみても彼が起きる気配は無く、私は閉じられた目蓋に自分の唇を寄せた。

押し当てた唇を離すと、目蓋がゆっくりと持ち上がり、睫毛の間から金色の瞳が覗く。

眠そうな瞳に私を映す彼の頬を手の平で撫でる。

「まだ眠っていていいのよ。」

「……お前さん、は…」

「ここにいるわ。だから安心なさい。」

「…ん。」

彼は私をぐっと抱き寄せると、肩口に顔を埋めてきた。

この状態では眠りにくいのではないのだろうかと思いながら、私は痛んだ銀髪をそっと撫でた。


(2014.08.10)

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