恋の行方

 
 


子猫が甘える

仁王視点


学校の屋上で柵に肘を掛け、ぼんやりと空を眺めていた俺は、片手で制服のポケット探った。

指先に当たった、紐の付いたクマの形の容器を取り出す。

クマの頭の上についているキャップを外し、中の溶液に浸っていた輪に息を吹きかける。

小さなシャボン玉が次々に飛び出して、風に揺られながら辺りに散っていく。

太陽の光に照らされて虹色に輝くシャボン玉は、すぐに音も無く弾けて消える。

何度もシャボン玉を吹いていると、突然、背中に小さな衝撃を感じた。

仄かに感じた香りに首だけを動かして見れば、彼女が俺の背中のシャツを握り締めながら頬を寄せていた。

(珍しい事もあるもんじゃな。)

理由は分からないが、彼女から俺に触れてくれるのは嬉しい。

しかし、下手に何かを言えば離れてしまうかもしれない。

暫くは彼女の好きにさせておくのがいいだろう。

背中から伝わってくる彼女の温もりを感じながら、俺はまたシャボン玉を吹いた。



「で、今日はどうしたんじゃ?」

冷たい金属の柵に背中を預けて座り込んだ俺の足の間に大人しく収まっている彼女。

その頭を優しく撫でながら理由を聞いてみた。

「どうもしないわ。…何故、そんな事を聞くのかしら?」

質問で返されたという事は答える気が無いのだろう。

彼女に何かあったという訳で無いのなら追求しなくてもいいのだが、理由が気になると言えば気になる。

「お前さんから俺にくっついてくるなんて、あんまり無いからのぅ。」

「……何か理由が無ければいけない?」

淡く頬を染めた彼女が顔を上げ、するりと細い腕が俺の首に回される。

どうやら、俺の心配は不要だったらしい。

「いかん訳が無いじゃろ。むしろ嬉しいぜよ。」

彼女の腰に腕を回して華奢な身体を更に引き寄せる。

「…そう。」

小さな吐息が俺の唇を掠めたと思ったら、柔らかな唇がぎこちなく押し付けられた。

「下手やのぅ。」

クツクツと喉で笑えば、彼女は拗ねたような表情で睫毛を伏せた。

「仕方ないでしょう。まだ慣れないんだもの。」

「そう拗ねなさんな。じっくり教えちゃるから覚えんしゃい。」

彼女の頭の後ろに手を添え、艶やかな髪に指を差し入れる。

「ま、待って…っん、」

少し無理矢理に唇を塞げば、彼女はびくっと身体を強張らせたが、他愛の無い抵抗はすぐに止んだ。

彼女は俺に身体を預けて繰り返される口付けを受け入れる。

強く弱く唇を押し付け、角度を変えて唇を擦り合わせる。

お互いの熱い吐息が溶け合っていく。

「におっ、くん……っ」

口付けの合間に甘い声で名前を呼ばれて、堪らなくなる。

「好きじゃよ、なまえ。」

耳元で優しく囁いて、俺は彼女の少し濡れた唇に喰らい付いた。


(2013.11.23)

‐09‐

 

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