君といると心が休まる | ナノ
ヒロイン視点


明るいオレンジ色に浮かぶ氷がグラスの中でカランと音を立てる。

今日は暑いからと、オン・ザ・ロックでアイスティーを淹れてみたのだ。

アイスティーはまだあまり作ったことがないけれど、とりあえずは失敗しなくて良かった。

これなら、景吾くんにちゃんとしたものが出せそうだ。

アイスティーの入ったグラスとマドレーヌを並べたバスケットをテーブルの上に置いてソファーに座る。

ぷっくりとした丸いシェル形のマドレーヌを一つ手に取って一口食べてみる。

今回のマドレーヌには絞ったレモン汁とすりおろしたレモンの皮を入れているから、爽やかな風味が口の中に広がる。

(今の季節なら、これくらいが丁度良いよね。)

しっとりとした食感になっていることに満足しつつ、今度は何を作ろうかなと考える。

「なに一人で寛いでんだ、なまえ。」

その声にはっとして生徒会室の扉の方に目を向けると、景吾くんが少し呆れたような顔をしながら中に入ってきた。

「ええと、……景吾くん、今日は真っ直ぐ部活に行くんじゃなかったの?」

一人でお菓子を食べている姿を見られてしまい、なんとなく気まずい気持ちになる。

甘いものが好きなことを否定する気はないけれど、食い意地が張ってるとは思われたくない。

「俺が邪魔だってのか?」

「違うよ。そうじゃなくて…っ」

景吾くんは隣に腰を下ろすと、私の飲みかけだったグラスを一気にあおった。

中身が氷だけになったグラスがテーブルの上に置かれる。

「新しいの用意…え、景吾くん?」

立ち上がろうと腰を浮かせかけたところで、景吾くんが私の肩に頭を預けてきた。

「20分後に起こしてくれ。」

「…う、うん。」

目線だけを動かして景吾くんを見ると、長い睫毛に縁取られた目蓋は閉じられていた。

自分の肩にかかる重みに、自然と口許が緩む。



静まり返った空間の中で、規則的な寝息だけが微かに聞こえる。

少しだけ首を動かして見れば、酷く無防備な景吾くんの寝顔がある。

普段よりも少しだけ幼く見えるのは気のせいだろうか。

躊躇いがちに伸ばした指先で、確かめるように景吾くんの顔の輪郭をなぞる。

そして、右目の下にある泣き黒子をそっと撫でた。

「擽ってぇよ。」

突然、手首を掴まれて驚いていると、寝ていた筈の景吾くんの目蓋がゆっくりと持ち上がった。

「ごめんさない、起こしちゃって…っ」

引っ込めようとした手は景吾くんの口許に引き寄せられて、指先に唇を落とされた。

「っ……」

なんだか、普通に口付けられるよりもどきどきしてしまって、頬が熱くなる。

「こっちの方が良かったか?」

少し意地悪そうに目を細めた景吾くんは私の唇を掠め取った。


(2012.07.01)
 

【ニルギリ】
ニルギリの名称は、現地の言葉で「青い山(ブルー・マウンテン)」という意味。水色は透明感のある明るいオレンジ色。ストレートにもミルクティーにも適するだけでなく、アイスティーやアレンジティーにも向く。非常に香り高く、芳醇な香り。上質なものには、花のような甘い香りがある。渋味が少なく、コクがあるのに、すっきりとした爽やかでまろやかな味わい。1年を通じて収穫でき、12〜1月に摘んだものが最高級とされ「ウィンターティー」と呼ばれる。8〜9月時期に収穫されるものも良品質である。

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