君といると心が休まる | ナノ

※この話を書いた時は新テニの156話の会話を参考にしていた為、跡部さんは英国留学しない設定になっております。

ヒロイン視点


今日は生徒会役員の引き継ぎ式があり、これで正式に旧役員の私達は引退になった。

ただし、もっと前に実務の引き継ぎは終わっていて、生徒会の仕事はしていなかったのだけれど。

(これで本当に最後、か。)

学校生活の中で多くの時間を過ごした場所といよいよお別れなんだなと、私は久しぶりに訪れた生徒会室を見回す。

窓からの景色を眺め、中等部の校舎に通うのも残り少ないことに感傷的な気分になる。

「やはりここにいたのか、なまえ。」

その声に意識を引き戻され、扉のほうを振り返れば、いつもと変わらない景吾くんの姿があった。



「これで最後になるね。ここでこうやって一緒にお茶をするのは。」

そう景吾くんに話し掛けながら、淹れたばかりの紅茶の入ったティーカップをテーブルに置く。

「そうだな。」

最後のティータイムに選んだのは、景吾くんも私も気に入っている茶葉だ。

「淋しいのか?」

「それはそうだよ。大変なことも多かったけど、楽しくて充実した時間だったもの。」

優雅にティーカップを持ち上げる景吾くんの隣に座り、美しく透き通ったオレンジ色で満たされているティーカップを傾ける。

上品な香りと甘さに、思わず口許が緩む。

「確かに充実していたな。ところで、高等部に上がったらまた忙しくなるぜ。」

「え…?」

口の中に残る甘い余韻を楽しんでいた私は、唇を離したティーカップを手にしたままの景吾くんを見た。

「俺は高等部でも生徒会長をやるからな。そして、俺のサポートをするのはお前しかいないだろ。」

「景吾くん…」

信頼を寄せられているのだと、向けられる眼差しから感じて、誇らしく思う。

「それじゃあ、頑張って選挙で当選しないとね。」

「お前なら大丈夫だろ。……なんだ?」

私がくすりと笑うと、景吾くんは怪訝そうに片方の眉を上げた。

「景吾くん、自分が当選するのは決まっているって口振りだから。」

「そんなもん当然だろうが。この俺以外の誰が相応しいと?」

自信に溢れた言葉に、新入生代表として挨拶をした時や選挙演説をしていた時の景吾くんの姿を思い出す。

「うん、景吾くんしかいないよね。」

「分かっているのならいい。」

満足そうに少しだけ口許を緩めた景吾くんは、紅茶を一口飲んでからカップをソーサーの上に置いた。

私も口に運んだカップをソーサーに戻し、隣にいる景吾くんの肩に頭を乗せて凭れかかった。

景吾くんは黙ったまま、私の髪を優しく撫でてくれる。

目を閉じて心地好い温もりを感じていると、頬にそっと触れられた。

「なまえ。」

静かに名前を呼ばれて目を開けると、触れていた指先が頬から顎へと滑り、顔を上げさせられた。

「景吾くん、今まで本当にお疲れさま。」

「お前もご苦労だったな。」

景吾くんに微笑みかけると、ゆっくりと顔が近付いてきて、私は素直に目蓋を下ろした。

重なった唇がすぐに離れるようなことはなく、口付けは次第に甘さを増していく。

いつまで経っても私は景吾くんに翻弄されるばかりで、いつだって身も心も蕩かされてしまう。

「…景吾、くん……好き…っ」

「ああ。俺もお前が好きだぜ、なまえ。」

熱を帯びた吐息交じりに伝えれば、言葉以上の想いが返される。

幸せすぎて死んでしまいそう、なんて贅沢なことを思いながら、私は景吾くんの背中を掻き抱いた。


(2017.01.07)
 

【シレット/シルヘット】
水色は明るい澄んだオレンジ色。紅茶特有の渋みが少なく、最大の特徴として独特の上品な甘さがある。クオリティーシーズンは5〜6月だが、茶摘みは4月〜12月まで繰り返し行われる。ごく一部の良質な茶葉はフルリーフで生産されているが、出荷量は非常に少なく、ほぼ全てがヨーロッパへ出荷されるため、非常に稀少かつ高価である。その中でも「紅茶の芸術」「幻の紅茶」とも呼ばれる限られた最高級の茶葉は、一般のオークションには出されずにヨーロッパのメーカーに長い間独占されていた。現在は日本にも輸出されているが、入手は困難である。

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